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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第170号

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ISASメールマガジン   第170号       【 発行日− 07.12.18 】
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★こんにちは、山本です。

 先日、忘年会がありました。私は自動車通勤なので、もっぱら食べるだけで飲み物はウーロン茶でしたが、M先生もドクターストップのため、やっぱりウーロン茶を飲んでいました。

 去年もそんなことを言っていたのにお酒を飲んでいたような……
今年は、目の前の席で秘書のTさんが目を光らせていました。(やっぱり!)

 今週は、宇宙航行システム研究系の野中 聡(のなか・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:風のお話
☆02:「かぐや(SELENE)」、スペクトルプロファイラによる観測を実施
☆03:「宇宙学校・しおがま」、盛況裡に終了
☆04:科学ゼミナール 科学衛星・探査機で探る宇宙【TEPCO電力館】
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★01:風のお話

 「風」についてのお話です。この原稿を書いている今、秋田県能代で再使用ロケットの実験をやっています。ものすごく冷たい雪混じりの風が容赦なく吹きつけます。でも今日は能代の風の話ではありません。

 宇宙研に就職した年の冬のこと。初めて内之浦というところに行ったときの話です。生まれて初めて経験するロケットの打ち上げに実験班の一員として参加しました。配属された班の名前は「OP(おーぴー)班」。OP班っていわれても何をする班なのかよくわかりません。同じ仕事をする大先輩のおじさん達に連れられてロケットを打ち上げる発射点を見に行くと、かなりのベテランらしいおじさんがでかい風船片手にトコトコ歩いています。しばらくするとカウントが放送され、
「10、9、… 3、2、1、放球願います」
の合図とともに真っ白な風船が放たれ、風に流されながら遠く青空の中へ消えていきました。このときは自分が風船係りになるとは思ってもみませんでした。

 宇宙研で打ち上げているS-310やS-520などの比較的小さな観測ロケットには自分の姿勢をコントロールするための制御装置は付いていません。ではどうやって姿勢を安定させて飛ばしたい方向に飛ぶようにしているのでしょう。みなさんは風向きを知るための「風見鶏」をご存知でしょうか。
風見鶏はくるくるしながらいつも風が吹いてくる方向を向くように作られています。実はロケットもこれと同じ原理でちゃんと前を向いて飛んでいるのです。ロケットのお尻の方には「尾翼」と呼ばれるものがついています。
(M-Vロケットなど姿勢制御装置を持つ大型のロケットにはついていないものもあります)ロケットが飛翔しているときにはこの尾翼が空気から力を受けて、ひっくり返ることなく進行方向(気流の方向)に頭を向けて安定した姿勢で飛んでいきます。

 最初の風船の話に戻ります。内之浦で飛ばした風船は打ち上げ前の上空の風の方向と速度を知るためのものです。風船には「ゾンデ」とよばれる装置が30mほどの紐の下にぶら下げられていて、風に流されながらGPSやセンサにより風向風速、高度、気温などを教えてくれます。この風船で内之浦上空20km〜30kmくらいまでの風を観測します。夏は穏やかですが、冬は上空10km付近で時に秒速100mを越える強い西風が吹きます。
上でお話したようにロケットは風が吹いてくる方に向くようにできているので、打ち上げ時の風の状態はロケットの軌道を予測する上でとても重要です。
そこでロケットの軌道を予め計算したり、風船で風を観測したり、予定している軌道をロケットが飛ぶように風の影響を考えて発射方向を調整したり、といった仕事が必要になります。そんなことをしているのがOP班です。

 風船を空に放つことを「放球」と呼んでいます。打ち上げ時の風の傾向を知るために、打ち上げオペレーション期間中は毎日打ち上げ予定時刻に合わせて放球します。打ち上げ当日には打ち上げの直前まで何回も放球して風の変化を把握します。風のデータが取れないと軌道を予測できないので、打ち上げ当日の放球は特に重要です。

 この放球、物心がついた頃にはいつの間にか私の仕事になっていました。
これがちょっとだけ大変です。早朝の打ち上げの時には、毎朝5時に起きて実験場に向かい、夕方の打ち上げの時にはデータが出てくる時間まで帰れません。さすがに台風や雷の時にはやりませんが、雨の中でもずぶ濡れになりながら放球します。雨風の強い日にはなかなか風船が上がらず、手から離れるまで全力で走って追いかけたりもしました。もちろん楽しいこともあります。風船を膨らましてくれる地元の作業員のおじさん(通称:風船のおじちゃん)と仲良くなれます。毎日放球を待つちょっとの間、釣りや農作業の話で盛り上がります。あるときは朝日を受けながら、またあるときは夕焼けの中、心地よい風を感じながら快晴の空に向けて風船を放つときは格別です。
次のロケット実験も楽しみです。

(野中 聡、のなか・さとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※