宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2007年 > 第166号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第166号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第166号       【 発行日− 07.11.20 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 今年は、インフルエンザがもう流行し始めたようです。帰宅時のうがいや手洗いが予防に効果的といわれていますが、ついでに顔も洗うと良いようです。(顔は、手で触ることが多いため。)

 今週は、プレスリリースされたばかりの「かぐや」搭載の「地形カメラ」を担当している固体惑星科学研究系の春山純一(はるやま・じゅんいち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「かぐや」(SELENE)搭載 月面撮像/分光機器(LISM)の初画像
☆02:「かぐや」の地形カメラとマルチバンドイメージャも観測確認
☆03:【内之浦宇宙空間観測所】特別公開
☆04:東大ーJAXA学際理工学20周年記念公開シンポジウム
───────────────────────────────────

★01:「かぐや」(SELENE)搭載 月面撮像/分光機器(LISM)の初画像

 9月14日に打ち上げられた「かぐや」(SELENE)は、現在、100km高度の月周回軌道に入り、各機器の機能チェックを行っています。

 「かぐや」には、三つの光学機器、地形カメラ、マルチバンドイメージャ、スペクトルプロファイラが搭載されています。これらは、探査機の重量や電力の削減のために、電気回路や構造を一部共有しています。この三つの機器をあわせてLISM(月面撮像/分光機器)といいます。地形カメラは、月面を10mという超高空間分解能で月面をくまなく立体視撮像し、月の地形を詳細に調べます。マルチバンドイメージャは、様々な波長のフィルターを通した画像を取得し、月面の物質の違いをあますところなく調べます。
スペクトルプロファイラは、鉱物に特有なスペクトル(波長毎の反射率)を得て、どんな鉱物が月に存在するのかを調べます。どれも、これまでに例をみない高性能の機器です。

 私は、特に、「地形カメラ」(略称TC)の主任研究者(PI)を担当しています。PIとは、担当する機器について、どのような科学観測をするかを検討することから始まって、実際の機器の開発、地上系システムの開発、データの校正・処理の実施、解析研究といった機器に関わるすべてのことについて責任を負う立場の者です。とてもやりがいのある仕事です。

 「かぐや」に携わって以来、10年以上が過ぎました。

 そして、このたびやっと、やっと、本当にやっと、私たちが開発を手がけたLISMは、初期機能確認の一環として初めての画像を得るまでに、辿り着きました。

新しいウィンドウが開きます http://www.jaxa.jp/press/2007/11/20071116_kaguya_j.html

 すばらしい画像データを、40万kmの彼方から送ってきてくれる孝行もののLISMに改めて感謝です。

 今だから言いますが、「かぐや」のパドルや磁力計ブームをモニタするカメラの画像(HPに掲載されています)を最初見たとき、とても美しい月の画像が鮮明に映し出されていて、「LISMは、これだけの美しいものを撮れるのだろうか?」と正直、焦りました。

 ハイビジョンカメラ(HDTV)の初期機能確認として撮影された動画を見たとき、おいおい、と思いました。「月が美しすぎる。まるで本当に月上空を自分が飛行しているみたいじゃないか。これじゃ、LISMなんて要らない、なんて誰か言い出すのじゃないだろうか…」

 しかし、初期機能確認用としてLISMの初めて降りてきたデータに、月面の細かい構造までがはっきりと映し出されているのを見たとき、そんな心配は吹き飛びました。自分が手塩にかけた機器だからひいき目に見て言うのではありません。LISMが我々に送ってきてくれたデータは本当にすごい、すごすぎます。今はまだ、すべての機器の初期機能チェックの段階であまりデータはありません。しかし、12月半ば頃から始まる予定の定常運用で、LISMが送ってきてくれるデータは、きっとさらにすごいものなるでしょう。

 「かぐや」の開発の中で、衛星本体や機器の開発の技術的な部分の責任を負うシステムマネージャの人に、「画像をみて鳥肌がたったよ。ハード(機械)は嘘をつかないね。苦労したら苦労した分の成果で報いてくれるよね」と言われ、辛かった不具合対策会議(開発に当たって、問題が発生したとき、その対応や処置について説明し、ときには激しく議論するようになることもある)などを思い出し、目がかすんでしまいました。厳しい部活で、なかなかほめてもらえなかった監督に、高校三年の最後の夏が終わったときに、初めてほめてもらった高校球児というような感じでした。
(ちょっと違うか…)

 ともかく、宇宙探査は絡んだ多くの人が皆、ほとんど100%の力を発揮していかないと、ちょっとのミスででも、すべてがだめになることがあります。そのプレッシャーは、各人いかほどか。みんなに支えられ、ここまでやっときた、という感を新たにしています。

 JAXAでは、「かぐや」の50分の1模型を作りますが、マルチバンドイメージャのPIの大竹真紀子さんが「この10年、お世話になった人にあげなくちゃ」と、言ったのを聞いて、はっと思いました。この10年、陰に陽に期待し、励ましてくれたのは、両親でした。二人にプレゼントしたくなり、購入希望分を増やしました。一方、家内やまだ幼い子供たちには模型より、早く帰ってやることのほうがいいようです。しかし来年いっぱいは無理かもなぁ…

 ともかく、「かぐや」はこれから、です。

 今後得られるデータを、国内外の第一線の研究者達とともに、データ処理・校正した後、詳細に解析研究していきたいと思っています。

(春山純一、はるやま・じゅんいち)

分光機器(LISM)について 詳しくは、
新しいウィンドウが開きます http://www.kaguya.jaxa.jp/ja/equipment/tc_j.htm

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※