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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第157号

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ISASメールマガジン   第157号       【 発行日− 07.09.18 】
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★こんにちは、山本です。

 先週156号で「すざく」の記事の内容が、前段の「あかり」の記事のままになっていました。昼前に読者の方から『間違っている』とメールが届き、その時点でやっと気付くという大失態でした。

 バックナンバーのページには訂正した記事を載せていますが、リンク先だけでも再掲します。
「すざく」のトピックス
http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2007/0910.shtml

「すざく」プロジェクトのページ
新しいウィンドウが開きます http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/

 14日に月周回衛星「かぐや」の打上げがあり、読者の方から早速お祝いメールをいただきました。ありがとうございます。

 今週は、システム開発部の餅原義孝(もちはら・よしたか)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:縁
☆02:月周回衛星「かぐや」打上げに成功!
☆03:大気球による成層圏オゾン・大気重力波の観測と水晶気圧計の性能実証試験に成功
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★01:縁

 ロケット・衛星の打上げには、数多くの人の力が必要です。ロケット打上げに限ったことではありませんが、多少のトラブルがあっても上手く解決し、ひいてはミッションを成功に導くために、同じ目的の仕事に携わる人々の間で、良いチームワークを作り上げることは、とても重要なことだと思います。「縁」とは、人と人とのつながりのことです。日本だけでも一億以上、地球上では数十億の人間が居る中で、一生の間まったくめぐり合うことの無い人のほうが圧倒的に多いはずですが、その中でめぐり合って一緒に仕事をするような人々の間にあるものが「縁」だと思います。

 我々は、USC(Uchinoura Space Center:内之浦宇宙空間観測所)でのロケット打上げの時は、それぞれの専門担当分野ごとに協力メーカ技術者の方々とJAXAの職員とで「実験班」という打上げチームを組織します。私は実験班の中ではKE(Kagoshima Equipment)班と管制班を担当しています。

 KE班は、作業連絡用のインターカム(我々は「指令電話」と名付けています)設備をはじめとして、USC構内電話・保安監視ITV・放送等の各種通信設備の他、時刻の基準となる信号を司る標準時刻信号設備、ロケットと地上設備をつなぐインターフェース回線設備や打上げ作業を司る発射管制設備など、多岐にわたる地上設備の整備・運用を担当しており、簡単な工作であればすぐに対応出来るように(実際に自分の手で物を作ることが結構あります)数多くのパーツ・材料を取り揃えていて、担当業務の性格上あまり目立つような仕事ではありませんが、ロケット班・タイマ班・テレメータ班・レーダ班等、あらゆる班(の担当者)とのつながりが自然と出来上がります。

 もう一つの管制班は、これらのすべての班の業務を取りまとめて、実験終了に至るまでロケット打上げ当日の作業進捗を司るのが主な仕事で、マイクを握って作業指示の放送をしたり、秒読みをしたりするので、かなり目立つ仕事です。専門が異なるためか、実験班として打ち上げに参加する人は、様々に強烈な(?)個性を持った方が多いのですが、個々人の性格をある程度把握することは、各種作業をまとめ上げてスムーズな作業進行を司るためにはとても有効で、KE班の仕事で出来上がる人とのつながりが大いに役立っています。

 私が旧文部省宇宙科学研究所に採用された時、KE班にはチーフの宮川忠良(ただよし)さんと下村和隆(かずたか)さんがいらっしゃいました。私の父の名は忠義(ただよし)といい、父の兄で宮川さんと同じ年の伯父の名が一隆(かずたか)といいます。恥ずかしながら私は人より少し多い年数を大学卒業までに要し、そこで受験した国家公務員試験に運良く合格してKE班担当として採用されたことは「たまたま」だと思っていましたが、実験班員の名簿を初めて目にしてこの事実に気が付いた時には、「縁」というものを強烈に感じました。

 2004年1月に観測ロケットS-310-33号機の実験が行われましたが、この打上げは実験実施の条件が厳しくてなかなか成立せず、日付で4日延期してようやく打上げ、実験は成功裏に終わったのですが、実は打上げた日は父方の祖母がなくなってから48日目でした。仏教の考え方で生まれ変わるまでの期間とされる49日の過ぎる前に、見守ってくれていた祖母が打上げ成功を手助けしてくれたのだと、(それほど信心深くない私も)この時は思いました。

 普段の仕事を神頼みの他力本願だけでしているわけではありませんが、「人事を尽くして」つまり自分がやるべき(出来る)ことをすべて済ませ、あとは打上げを待つだけとなったら、先ほどの話とは少し趣が違うかもしれませんが、縁起やジンクスを担ぐなど「天命を待つ」気持ちになるのは、実験班の皆さんはそれぞれに多少なりともあるようです。数多くの人が携わるロケット打上げは、一人のミスが他人を巻き込む失敗につながります。良い天命を導くため、ミスを出来るだけ無くして人事を真に「尽くした」状態で打上げに臨むには、良いチームワークは大きな手助けになると思います。

 宇宙の仕事をしていると、人と人のつながり「縁」の大切さを感じることがよくあります。これからの打上げも「縁」を大事にして良いチームワークを作り上げ、楽しく仕事をして数多く成功させていきたいものです。

(餅原義孝、もちはら・よしたか)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※