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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第150号

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ISASメールマガジン   第150号       【 発行日− 07.07.31 】
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★こんにちは、山本です。

 関東地方が、なかなか梅雨明けしません。日曜・月曜と雷雨に見舞われ、落雷のため停電したり、電車が止まったりしています。このままでは、梅雨明けは8月になってからでしょうか?

 来月6日からは「きみっしょん」が開催されます。先日、メルマガの原稿を依頼したのですが、スタッフ一同張り切って準備が進んでいる様子がうかがえました。『乞うご期待』といったところでしょうか。

 今週は、宇宙構造・材料工学研究系の元屋敷靖子(もとやしき・やすこ) さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:トルネード大国アメリカにて
☆02:宇宙学校・うえだ
☆03:相模原キャンパス見学案内
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★01:トルネード大国アメリカにて

 2月の終わりにアメリカ南部アトランタ近くのAuburn大学に2週間ほど滞在し、超高速衝突実験をやってきました。この時期、飛行機の乗換えで立ち寄ったシカゴではまだ雪が降っていたのですが、南部の町ではすでに気温15℃を超える日が始まっていました。

 私は宇宙科学研究本部に来て2年目で、ロケットや衛星に使われる材料の強度について研究しています。今回のアメリカ滞在は、宇宙空間に浮遊しているメテオロイドなどとの衝突に対する衛星用材料の強度評価に関する研究の一つとして、Auburn大学宇宙研究所にあるプラズマガンを用いて実験することを目的としていました。

 このプラズマガンでは、小さなガラスビーズを秒速12kmまで加速することが出来ます。時速60kmの自動車を秒速に換算すると約16.7m/secですから、この加速がいかにすごいか分かってもらえると思います。それでも、宇宙空間でのメテオロイドはもっと速いスピードで漂っているものもあるのです。加速装置そのものは全長8mもあり、容量10kVのコンデンサが4つ備わっております。このコンデンサに貯めた電気を一気に放電することでプラズマを作り出し、その爆発力でガラスビーズを加速させ、ターゲット材料に衝突させます。合計40kVも充電するのですから、チャージングの間は危険を知らせるサイレンを鳴らし、隣接したオペレーション室で緊迫した時間を過ごすことになります。たまに、チャージアップ完了前にいきなり爆音がして、実験が失敗することもありました。これはガンではない別のどこかでアーク放電が生じたためで、湿度やケーブル類の配置によって起こります。かつてクモの巣がコンデンサの近くに張ってあったため、そのクモの糸を通って放電してしまったことがあったそうです。クモにして見ればいきなり大電流が巣を爆破したものだからたまったものではなかったでしょうね。この実験は、そんな危険を伴っており、実験が成功するまでのチャージアップの時間は、いつもどきどきさせられました。

 2週間の滞在中に1日だけ、どうしても作業を中断しなければならない日がありました。それはトルネード注意報が発令された日です。日本でのトルネード(竜巻)被害はまだ記憶に残っているとは思いますが、アメリカではトルネードは頻繁に発生します。そのためテレビではトルネードの発生確率を予想し、近隣の町々では学校が休校になったりします。Auburnの町も予想では発生危険地域にかかっており、研究所では常にテレビをつけて、トルネードの接近に備えておりました。「日本の台風みたいだろう」といわれたように、外は強い風と時折雨が降っておりましたが、日本の台風と異なる点は、局所的に竜巻が発生することです。この町はトルネードの直撃は免れたのですが、残念なことに近くの町の高校が直撃を受け、高校生数人が被 害に遭われたそうです。

 Auburnという町は、非常にのんびりとしているところです。大学の歴史は古く町のシンボルとして愛されております。大学内には巨大なフットボールスタジアムや野球場もあり、市民の憩いの場ともなっております。
滞在期間中にも大学野球の試合があり、観戦したのですが、ちゃんとナイター設備もあり、ホットドッグスタンドもありました。さらには大学のマスコット(トラのAubie)も応援に来ていて、子供たちも一緒に家族みんなで楽しめるようになっていました。この辺がアメリカらしいところだと思います。ただ、町の規模が小さすぎて、週末の時間の過ごし方には苦労しまし たが……

 今回の滞在は2週間と短かったですが、その分研究所の皆さんとは非常に濃い時間を過ごさせていただきました。実験も非常にエキサイティングで、なかなか得がたい貴重な経験をさせていただきました。実験も成功したことで、その成果を実際の衛星の設計に反映されれば、今回の滞在はより実りのあるものとなるだろうと思います。

 最後に、今回の機会を与えてくださった総合研究大学院大学の皆様に感謝の意を表します。

(元屋敷靖子、もとやしき・やすこ)

総合研究大学院大学 物理科学研究科のWebページ
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※