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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第146号

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ISASメールマガジン   第146号       【 発行日− 07.07.03 】
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★こんにちは、山本です。

 ついこの間まで「カラ梅雨」の心配をしていましたが、梅雨空が続くと、今度は一般公開の日の空模様が心配です。水不足は困りますが、「どうか、 一般公開はお天気になりますように」と願っています。

 今週は、宇宙探査工学研究系の豊田裕之(とよた・ひろゆき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:太陽電池は太陽光が苦手!?
☆02:ISASニュース6月号(NO.315)
☆03:サーバメンテナンスのお知らせ
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★01:太陽電池は太陽光が苦手!?

 宇宙研では、2010年に金星探査機PLANET-C、2013年に水星探査機MMOの打上げを予定しています。金星も水星も内惑星、つまり地球よりも太陽に近い惑星ですから、太陽光もぐっと強くなります。金星では地球の約2倍、さらに太陽に近い水星ではなんと11倍にも達します。

 ご存知のとおり、宇宙空間で電力を得るため、人工衛星や探査機は太陽電池を積んでいます。内惑星では太陽光が強くなりますから、発生電力が増え て大助かり…というと、これは本当でしょうか。答えはYESでもあり、NOでもあります。

 太陽電池が発生する電力は、光が強くなればなるほど増えてゆきます。
ですから、内惑星の電力事情は確かに良いと言えそうです。ところが、問題なのは温度です。地球上に生命が溢れているのは、太陽の光が地球を暖めてくれているからですが、これが2倍や11倍の強さともなると話は別です。

 金星に向かうPLANET-Cの太陽電池パネルは、太陽光にさらされて最高で170℃程度まで熱せられます。ちょうどケーキを焼く時のオーブンの温度くらいですね。

 水星に向かうMMOでは、太陽電池パネルを太陽に向け続けていると温度が上がり過ぎてしまうため、衛星をスピンさせて日向と日陰が交互に来るようにしています。さらに、太陽電池パネルの半分くらいの面積を鏡にして、できるだけ温度が上がらないようにしています。そうやって努力を重ねても、太陽電池の表面は230℃にも達してしまいます。ケーキであれば焦げてしまう温度ですね。

 さらに厄介なのは、太陽に向いている間は高温に熱せられるのに、日陰に入ると今度は−170℃以下まで冷やされることです。液体窒素の温度が−196℃といえば、どれだけ寒いか想像がつくでしょうか。これは太陽電 池パネルに限らないことで、衛星の表面に露出している機器は全て、高温にも低温にも耐えられるよう設計しなくてはならなりません。

 さて、衛星を作る際には、各部品がこのような厳しい環境できちんと動作するか、前もって確認しておかなければなりません。PLANET-CとMMOの太陽電池パネルは、現在「熱衝撃試験」と「高温連続動作試験」という二つの試験にかけられています。ところが条件が特殊ですから、試験をすること自体がそう簡単ではありません。

 一つ目の熱衝撃試験では、太陽電池を−170℃の低温と+170℃の高温に交互にさらします。上でケーキと液体窒素と書きましたが、この試験をするためには、上半分がオーブン、下半分には液体窒素が流れ込むという、特別な装置を準備します。そして太陽電池をかごに入れ、この装置の上半分と下半分を行ったり来たりさせるのです。PLANET-Cは金星の周りを最低でも550回は回る予定ですから、太陽電池の入ったかごを550回行ったり来たりさせることになります。「熱衝撃」という言葉は聞き慣れないかと思いますが、太陽電池が300℃以上の温度差をものの数分で駆け抜ける様子は、まさに「衝撃」です。

 二つ目の高温連続動作試験は、太陽電池を真空チャンバーに入れて強力な光を当て、200℃以上の高温環境で何百時間も発電させ続けるという試験です。この試験で難しいのは、真空と強い光を両立させるところです。そのために、真空チャンバーの片側の壁が大きなレンズになっていて、外から光を入れられるようになっています。しかも水星であれば地球に届く光の11倍もの強さにしなくてはなりませんから、電球に流す電流は何百アンペアにもなります。また、真空チャンバーの中で光が色々な方向に反射してしまうと困るので、壁の内側は真っ黒に塗られています。そこに強力な光が当たると壁が燃えてしまうので、液体窒素を使って壁を冷却します。

 金星や水星の強力な太陽光でも「苦手」としない太陽電池パネル作るため、私達は日々試験を重ね、努力を続けています。地球から遠く離れた惑星に探査機を送ることはもちろん大きなチャレンジですが、探査機を作る過程にも小さなチャレンジがたくさんあります。そしてこのような試験をしていると、太陽に近からず遠からず、地球という非常に恵まれた惑星が生み出されたことに、驚きと感謝の念を新たにします。

(豊田裕之、とよた・ひろゆき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※