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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第140号

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ISASメールマガジン   第140号       【 発行日− 07.05.22 】
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★こんにちは、山本です。

 前号でお知らせした「はやぶさの大いなる挑戦」は、放映が延期されました。楽しみにされている方、もう少しお待ちください。

 食堂の外のテラス部分に廂が取り付けられて、木製のイスとテーブルが置かれました。前庭部分は下生えを刈り込んで、緑道と丸太で作られた大きなベンチが2組。これからの季節、木漏れ日の下でお弁当を食べたり、コーヒーブレイクを楽しんだりするのに最適ですね。

 今週は、宇宙科学共通基礎研究系の中村正人(なかむら・まさと)さん です。

── INDEX──────────────────────────────
★01:金星探査機プラネットC
☆02:ISASビデオ「はやぶさの大いなる挑戦」がNHK教育テレビにて放映
☆03:気球BVT60-3号機の到達高度世界記録ならず
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★01:金星探査機プラネットC

 金星探査プロジェクトマネージャの中村です。日本の金星探査についてお話ししたいと思います。アメリカやロシア、最近はヨーロッパもですが、火星や金星、あるいはもっと遠くの木星、土星などに探査機を送り込んでいます。初期の頃はその惑星のそばを通り抜けるフライバイを行い、その後は惑星の周りを周回したり、惑星の表面に降りるなどしています。1960年代にスタートを切ったこれら惑星探査先進国の技術(ノウハウ)と基盤は分厚い層をなしており、なかなか追いつけるものではありません。
日本の状況を見てみるとプラネットA(すいせい)はハレー彗星の近くを飛行し、プラネットB(のぞみ)は火星の周回を目指しました。しかし、残念なことに強い重力を持った惑星の周りを周回する、つまりその惑星の人工衛星になるには至っていません。先年大きな成果を上げたミューゼスC(はやぶさ)が着地した小惑星イトカワは重力がほとんどありませんから、少し事情が異なります。人工衛星になるためには地球の重力を振り切って相手の惑星に到着した後、逆噴射をしてスピードを殺し、その惑星の 重力に囚われるようにしてやらなければいけません。

 プラネットCは日本で初めて月を除く他の惑星に到達し、その周りを巡る事を目指しています。打上げは2010年夏、到着はその年の12月でJAXAの誇るH-IIAロケットで打ち上げられます。この探査機は現在飛翔体モデルと呼ばれる実際に金星まで飛んでいく機体の設計製造に入っています。2009年には総合試験を行い、2010年の打上げに備えます。試験はJAXAの相模原キャンパスにある構造試験棟で行います。
宇宙科学研究本部に勤務するエンジニア、研究者と全国の大学からくる研究者がメーカーと力を合わせて機体や観測機器の製造、試験に携わります。ではプラネットCは何を調べに金星に行くのでしょうか?

 かってのソビエト連邦は金星に多数の探査機を着陸させました。ベネラ(ロシア語でのヴィーナス)シリーズと呼ばれる探査機は大気中をパラシュートで降下する間にその大気の成分や量を調べ、地表面の写真を送ってきました。これらのデータにより、金星の表層や大気の大まかな事は判っています。金星はほとんど自転していないけれども、その周りの大気は地球時間の4日で金星の周りを回っている事もこれらのデータが裏付けています。その後、しばらく金星への探査は滞っていました。
アメリカがマジェランと名付けられたレーダー探査機を送り込み金星地表の精密な地図を送ってきたのは最近のことです。この様に金星はある程度判っているけれど、まだまだ未知のことが多い惑星です。そこで、日本で我々が金星探査機の計画を立てるにあたって、まだ判っていないけれども、調べれば大きく科学に貢献できることは何かを議論しました。2000年のことです。結論は、金星の気象学を確立するということでした。

 皆さんは地球の気象学についてはよくご存じだと思います。日本で言えば気象庁の方々が苦労して取得されデータをもとに、精密な気象モデルが構築され、それに基づいて例えば天候の予測が数日間の単位で可能になっ ています。金星の気候は地球とは大きく異なってはいますが、しかし、やはり濃密な大気があり、それが運動していると言うことでは地球と変わりありません。そこで、金星で衛星“ひまわり”のように大気の運動を精 密に測ることが出来れば、地球とは異なった気象学、つまり金星気象学が構築される事になります。地球気象学と金星気象学は恐らく大きく異なった部分もあるでしょうが、しかし、同じ流体力学に基づいて大気は運動し ているはずですから、共通する部分もあるでしょう。金星と地球を比べて、その同じ所、異なるところを比較すると、今度は地球の気象学で欠けているところが見えてくるはずです。この様な考え方を比較惑星学と言います が、そのようにして、地球、金星の両者を含む惑星気象学を創設することが我々の願いです。そして、そのうちには火星や、遠く離れた木星や土星本体、その衛星などの上の気象現象も人類は理解するようになるでしょう。 日本から世界に発信する惑星気象学というものが出来るならば、日本人は将来世界の人々から尊敬されるようになれるかもしれません。我々はそれを目指してがんばっています。

 金星探査機には様々な波長で大気中の雲や一酸化炭素などをイメージングするカメラが5台積まれています。その中には、金星の雷を調べるという一風変わったものもあります。カメラは北海道大学、東北大学、東京大学、国立極地研などの協力でJAXAの探査機に積まれるものです。JAXAの中の宇宙科学研究本部は全国の大学の共同利用研究施設としても機能していますから、この様な素晴らしい協力体制が可能となります。これらのカメラは2年間金星の大気の様子を調べて地球にデータを送信してきます。それを解析するのは日本だけではなく世界の気象研究者です。アメリカやヨーロッパの研究者も日本の研究者と同じようにプラネットCのデータを心待ちにしています。我々は世界の人々の期待を裏切らないために日夜努力しています。

(中村正人、なかむら・まさと)

http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/planet-c/index.shtml
新しいウィンドウが開きます http://www.stp.isas.jaxa.jp/venus/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※