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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第123号

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ISASメールマガジン   第123号       【 発行日− 07.01.23 】
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★ こんにちは、山本です。

 121号でお知らせした大高郁子さんのイラストがポストカードと栞に (各4種類)なりました。
丸の内オアゾにあるJAXAi( 新しいウィンドウが開きます http://visit.jaxa.jp/jaxai/)と丸善丸の内本店に置いてあります。丸の内近辺にお出かけの際は、お立ち寄りください。数に限りがありますので、無くなってしまったらゴメンナサイ。

 今週は、宇宙航行システム研究系の津田雄一(つだ・ゆういち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙の編隊飛行技術とSCOPE計画
☆02:S-310-37号機打上げ成功!
☆03:「月に願いを!」──こんな方からもメッセージ
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★01:宇宙の編隊飛行技術とSCOPE計画

 今回は近い将来の技術と、それを使ったミッションの一例として、編隊飛行技術とSCOPEミッション計画について紹介しましょう。

 「編隊飛行」というと、皆さんは、エアショーなどで戦闘機が隊列を組んで、美しい軌跡を描きながら飛行する姿を思い浮かべるでしょうか。または人によっては、「雁行」を思い浮かべるかもしれません。雁がV字の隊形を組んで大空を飛ぶ姿は、優雅なものです。英語では、フォーメーションフライトと言いますが、これもきっと皆さんにも馴染みのある言葉でしょう。

 宇宙の分野でも、編隊飛行がひとつの研究分野として、存在します。空ではなく宇宙空間で、複数の宇宙機が編隊を組んで飛ぶのです。宇宙の編隊飛行のコンセプトは、ひとつの衛星ならとても大きな構造、大きなシステムになってしまうミッションを、小さな複数の衛星で置き換えることで実現しよう、というものです。今のところ無人の自律自動技術の意味合いが強く、有人の(たとえばスペースシャトルが宇宙ステーションにドッキングするときのような)ランデブー技術とは区別されます。

 この編隊飛行技術、研究としては10年以上行われてきていますが、実際にミッションになり打ち上がったものは、世界的にもほとんどありません。その理由としては、編隊飛行でしかなしえない魅力的なミッションが創出されてこなかったことと、ミッションが必要とする編隊飛行の精度に実際の技術レベルが追いついていないことが大きな要因でした。そんな中で、日本が1997年に打ち上げた試験技術衛星ETS-VII(おりひめ・ひこぼし)は、実際にフォーメーションフライトを行った数少ない例でしょう。

 ところで、いま宇宙研では、地球磁気圏を観測する次世代の衛星計画「SCOPE」の検討をしています。これは日本が1992年に打ち上げて今なお観測を続けている磁気圏観測衛星GEOTAILの後継として考えられているものです。GEOTAILは、地球を取り巻く磁気圏の理解を飛躍的に広げた、世界的にも非常に評価の高い衛星です。SCOPEは、5機以上の衛星を地球周回長楕円軌道上に周回させ、磁場・電場・プラズマの多点同時観測を行うことで、GEOTAILを超える観測成果を得ようというものです。

 GEOTAILは単一の衛星でした。そして衛星が軌道上を移動することで、電磁場の空間的な分布を計測していました。ところが、これだと、場所の異なる点のデータは、必ず異なる時刻に観測されることになります。つまり、観測したものが電磁場の時間的な変動なのか、空間的な分布なのかを区別することができなかったのです。SCOPEは、複数の衛星で多点同時観測することにより、まさにこのような単一衛星での観測の問題点を解決することができるのです。他にもSCOPEの新しい点はいくつもありますが、「編隊飛行」をするというのがSCOPEミッションのエッセンスと言えます。

 エンジニアリング的な観点で、編隊飛行を実現する上でどうしても必要になるのが、衛星間の相対位置計測の手段です。私は雁ではないので真実は知りませんが、雁が編隊飛行するときに、隣の雁との位置関係を時々刻々把握して飛んでいるのでしょう。目で見ているのか、風きり音や風圧の強さで判断しているのか、とにかく雁は隣同士の距離感を何らかの方法で認識しているはずです。

 宇宙機の編隊飛行でも同じです。SCOPEでは、衛星間の距離を電波を使って計測します。衛星が5機いる場合、衛星間距離は10通り(5機の中から2機を選ぶ組み合わせの数)の長さ情報になります。SCOPE用に開発している測距システムでは、この10通りの長さ情報を時々刻々集めることで、数km〜数100km離れた衛星どうしの位置関係を1mの精度で知ることができるのです。

 距離を知った上で、いかに秩序ある編隊飛行をさせるか? この点も宇宙機の編隊飛行研究の面白く、またもっとも難しい課題のひとつです。SCOPEでもいろいろアイディアを出している段階です。夕日に向かう優美な雁の群れ。その小さき頭で何を考え、如何にして雁行に秩序あらしめるか…  編隊飛行の技術も、まだまだ自然界に学ぶべきことは多そうです。

 まだSCOPEはプロジェクト化されていないので、実現にはたくさんのハードルがありますが、ヨーロッパなどからも注目されており、国際的な共同ミッションにしようという気運が盛り上がってきています。どうせやるならば、主導的な立場で国際共同プロジェクトを推進したい。私たちが先行開発している編隊飛行技術は、そのための重要な“武器”になるのだと思っています。

 日没後や日の出前の夜空に、人工衛星の光点がツーっと高速で移動している光景を見たことがある方は多いと思います。たくさんの衛星が編隊飛行するようになると、夜空を高速で移動する「星座」を見ることも多くなるのかもしれませんね。

(津田雄一、つだ・ゆういち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※