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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第122号

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ISASメールマガジン   第122号       【 発行日− 07.01.16 】
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★ こんにちは、山本です。

 先日、読者の方からメールを戴きました。「大高郁子さんのイラストが素敵なのでポストカードにしてください。」とお願いされました。現在広報担当(只今出張中)と詳細について検討中です。今しばらくお待ちください。

 今週は、宇宙科学プログラムディレクタの中谷一郎(なかたに・いちろう) さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:天才宇宙ロボット
☆02:「月に願いを!」キャンペーン 1月末までです。
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★01:天才宇宙ロボット

地上のロボット

 日本は世界に冠たるロボット大国。何しろ世界の産業ロボットの40%以上が日本で活躍しています。少子化で減少が心配されている日本の人口は世 界の2%以下ですから40%というのは驚くべきロボット「人口」ですね。

 産業用以外でも、2足歩行ロボットやペットロボットなどいわゆるエンターテインメントロボットの分野でも日本は突出しています。つい最近も日本の産総研のアザラシ型ロボット「パロ」が世界一の癒しロボットとしてギネスブックに載ることが決まりました。

 また、実用の分野でも今後、ロボットは工場の外に出て街の中、家庭、病院、老人ホーム、お店、交通機関、駅、駐車場、劇場、展示場などに普及していくと予想されます。近い将来、ロボットが人に代わって地雷除去、介護、清掃、救助、防犯、災害監視、接客などさまざまな仕事をしてくれる ようになるでしょう。

 その中で、宇宙はロボットが活躍する重要な分野です。ところで宇宙ロボットっていったい何でしょうか? どのように活躍しているのでしょうか?本稿では、宇宙ロボットの現状と将来を考えてみましょう。その前にそもそもロボットとはどんなものかをまず考えてみましょう。

ロボットとは何でしょう?

 ロボットと聞いてすぐ思いつくのはある年代から上の方は、鉄腕アトム、鉄人28号などでしょうね。もう少し若い世代では、ガンダム、ドラえもん、ターミネーター、R2(スターウォーズ)といったところでしょうか。これらのロボットに共通しているのは人間と似た姿、形をしていてかつ、人間にはないある種の特殊能力をもった機械です。(ときに、アニメなどに人間と は異なる奇怪な姿をしたロボットが登場しますが、必ずといっていいほど、分り易い悪役ですね。)

 では、そもそもロボットって何でしょうか?
(1)脚やジェットを持っていて走ったり飛んだりする、
(2)目、耳、触覚があって見たり聞いたり触れたりする、
(3)頭脳を持っていて考え、自分で判断したり、人間の言うことを理解する、
などでしょう。これらをエンジニアの言葉でいうと次のようになります。

(1)センサ:目、耳、触覚
(2)アクチュエータ:手、脚、飛翔能力、筋肉
(3)プロセッサ:頭脳

しかし広い意味でのロボットはこれら(1)から(3)までの全てを同時に備えている必要はありません。たとえば、自動車工場で働いている組み立てロボットの多くは歩き回ることはせずに、単に素早く「腕」を振り回して組み立てをこなしているだけでしょう。

 宇宙ロボットも同じことで、よくスペースシャトルや宇宙基地で活躍するスペースマニピュレータは宇宙飛行士が操作する人工の腕です。この腕も一種の宇宙ロボットと呼ばれています。

宇宙ロボット

 では宇宙のロボットと地上のロボットでは何が違うのでしょうか?
基本的な機能は地上ロボットと全く同じです。ただ宇宙で活躍するロボットには次のような特殊性が要求されます。

・ 宇宙の特殊な環境:打上げ時のロケットの高い振動・衝撃、高真空、高温(たとえば、金星表面の温度は480度)、極低温(たとえば、天王星では表面温度はマイナス210度)、放射線など厳しい環境に耐える必要があります。家庭にあるコンピュータをそのまま宇宙に持っていったら、たちまち故障してしまうでしょう。

・ 自律性:地球からのラジコンは地球に近いところでは有効ですが、惑星探査では電波の伝搬時間が長くて非効率です。たとえば電波の往復時間が、火星では最大40分、海王星では8時間、一番近い恒星(アルファケンタウルス)では、何と9年です。したがって、地球からの遠隔操縦は諦めて、 ロボットを賢く設計して地球からの指令なしに自分で判断して行動すること ・・・つまり自律性が重要になってきます。

・ 高信頼性:修理するのが容易?ではないので簡単に故障してしまっては困ります。予備の装置を持たせたり、故障しにくい特殊部品を使ったりする配慮が必要です。

賢い探査ロボット

 探査ロボットの自律性について上に述べました。特に惑星を探査するロボットは、行ってみないと分らない地形や思いがけない環境に遭遇して、臨機応変に対応する能力が要求されます。つまり環境を理解してゴールまでの経路を考えることが必要です。岩やクレーターなどの障害物を発見して、乗り越えるか、迂回するかをとっさに判断することもします。

また科学的興味のある土壌や岩石などを見つけて採取する。資料を破砕・スライスしたり薬品や分析機器などを用いて解析するなど一連の科学的な 観測・分析を実施します。

 さらに進んで、月や惑星表面にロボット基地を作り長期的な観測を行ったり有人活動をする支援をすることになるでしょう。南極に昭和基地を作ったように月や火星に基地を作って人間が住むことになるでしょう。しかし、南極と違って周囲は宇宙服なしには歩けないような環境です。資材を運んだり大型の構造物を建設したりするにも、ロボットの支援が必須でしょう。

太陽系をはなれて

 太陽系の外に出るためには、さらにずっと賢いロボットが必要になります。
たとえば一番近い恒星アルファケンタウルスに到達するには、太陽系を飛び出すぎりぎりの第3宇宙速度(秒速16.7km)で飛ぶロケットでは、7万年以上かかってしまいます。光に近い速度の光子ロケットは今のところSFに近いお話に過ぎませんが、たとえそれができたとしても数十年から数百年はかかるでしょう。

 そうなると、人間が出かけていくというのは考えられず、ロボットが唯一の探検家です。ここからは空想をめぐらせて、少し研究者らしからぬ話に脱線してみます。

 数十年から数万年というような気の遠くなるような長旅に耐えるロボットは、相当な知能をもち、人間から直接の指示がなくても、ある種の社会生活をいとなみ、仕事を分担、協力して行っていくでしょう。光子ロケットの中に、たとえば、数千人(?)規模のロボット社会を構成する。ロボット共和国と名乗るかも知れませんね。

 ロボット共和国の中ではロボットの修理はもちろんのこと、自己複製が絶えず進行する。新世代ロボットの教育は簡単、メモリーの書き込みで一瞬で完了です。

 さらには新しい機能をもった新種ロボットの創造をとおして、ロボットの進化が始まるでしょう。そうなると行く先は私達の予想の範囲を超えます。人類の想像もできないような天才ロボットが出現して、人類の能力をはるかに超えた手法で恒星探査を主体的に実施していくかもしれません。ある種の意識をもち、人格(?)を認めざるを得ないようなロボット族が出現する可能性が高い。その先は、哲学、倫理学あるいは宗教学上の大変興味深い問題が生じてくると思いますが、もうSFの世界ですね。

(中谷一郎、なかたに・いちろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※