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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第114号

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ISASメールマガジン   第114号       【 発行日− 06.11.14 】
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★こんにちは、山本です。

 前号の「頑張れ、冥王星!」について、読者の方から質問がありました。

> >ワイ惑星がDwarfなら小惑星はなんていうのでしょうか。

筆者の吉川さんから回答を戴きました。

『小惑星は、今までは、英語ではminor planetとかasteroidと呼ばれていましたが、この夏のIAUの決議で、minor panetという言葉は使わないことになったのだと思います。asteroidの方は、特に何も制限はないと思います。

 そして、惑星でもなく、dwarf planetでもない小惑星や彗星は、small solar system bodiesと総称されることになりました。まあ、この言葉の訳は、「太陽系小天体」でよいと思います。(正式にはまだ決まっていませんが。)』

 今週は、宇宙プラズマ研究系の浅村和史(あさむら・かずし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:これからの月探査計画
☆02:太陽観測衛星「ひので」がとらえた水星の太陽面通過
☆03:宇宙学校・あきた  <宇宙のなぞにせまりたい!>
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★01:これからの月探査計画

 Chandrayaan-1衛星はインドにとって初めての月探査計画です。2008年3月に南インド、Sriharikota宇宙センターから打ち上げられる予定となっており、現在開発が進んでいます。衛星には、X線検出器、可視カメラ、レーザー高度計などインドが開発・製作する機器とともに、国際公募で選ばれた観測器も搭載されます。このうち、SARA(Sub-keV Atom Reflecting Analyzer)と呼ばれる低エネルギー粒子分析器はIRF(スウェーデン宇宙科学研究所)、JAXA、ベルン大学(スイス)、ISRO(インド宇宙機関)によって共同開発されています。SARAは低エネルギー中性粒子分析器(CENA)と低エネルギーイオン質量分析器(SWIM)の2つの機器で構成されています。

 月には地球のような固有磁場がありません。このため、太陽から吹き出すプラズマ(イオン・電子)流である太陽風が、直接月表面にまで到達すると考えられています。太陽風は毎秒400km程度の速度を持つ超音速流です。このような速度を持った粒子(イオン)が月表面に衝突すると、表面を構成する粒子がたたき出されます。この過程はスパッタリングと呼ばれ、たたき出される効率は粒子の種類によりません。スパッタリング粒子は月表面の元素組成を直接反映することになります。また、スパッタリング過程は粒子間衝突過程なので、原理的には降り込み粒子と同程度の運動量を持ったスパッタリング粒子が生成可能です。

 月表面から粒子が放出される過程は他にもあります。太陽光による光脱離、太陽風電子による脱離、月表面温度をエネルギー源とする脱離、また宇宙塵衝突による放出などです。これらの過程に共通して言えることは、放出される粒子のエネルギーが低い、ということです。速度で言うと典型的には毎秒数km程度、あるいはそれ以下です。また、これらの過程では放出されやすい粒子とそうでない粒子があります。ただし、太陽光自体は強力であるため、放出される粒子数は非常に多くなります。月表面近くの宇宙空間は多量の月表面由来の粒子で満たされている(といっても地球表面に比べればとても希薄ですが)わけです。

 上記のように月周辺の宇宙空間では希薄な大気(外圏)が形成されています。外圏への粒子供給源は月表面です。そして、消失過程は月表面への粒子の付着、太陽光輻射圧による月重力圏からの脱出、また太陽光による光電離などです。なお、最後の光電離では、中性粒子が電離されることによって太陽風中の電場を感じるようになり、太陽風と共に反太陽方向に流れてゆくことになります。しかし、これらの月外圏生成・消失過程は理論として考えられているものの、定量的には依然未解明です。

 このような外圏生成・消失過程は水星でも働いていると考えられています。ただし、水星には弱いながらも固有磁場があるため、水星周辺に磁気圏が形成されていると考えられています。磁気圏の中ではさまざまなプラズマ粒子加速・加熱現象がおき、地球や木星では高緯度域にオーロラが出現したりします。水星ではオーロラ発光現象が起こるとは考えられていませんが、水星表面からの粒子供給量によっては磁A隻気圏内の粒子加速・加熱現象に大きな影響を及ぼします。これは磁気圏粒子の主要供給源である太陽風中のイオンのほとんどが水素イオンであるのに対し、水星表面から放出される粒子は酸素など重粒子主体と考えられるからです。現在JAXAではBepiColombo水星探査計画が進行しており、約10年後に水星周回探査が行われる予定です。
このとき大気が希薄な惑星・衛星での外圏生成・消失過程を知っておくことは重要です。

 SARA/CENAは月表面から放出される粒子の中でも高エネルギーのものを観測します。こうするとスパッタリング粒子のみを選択的に観測することができ、表面組成を直接反映した情報を得られます。ただし、この場合、スパッタリング過程を引き起こす降り込みイオンを観測しておく必要があります。SARA/SWIMはこの降り込みイオンを観測します。SARAでは 月外圏の生成・消失過程をスパッタリング粒子を観測することで明らかにしてゆきます。

 来年夏にはSELENE衛星も打ち上げられ、月周回軌道で観測を行う予定です。これは、Chandrayaan-1衛星と同時期に観測が行われることを意味します。宇宙プラズマ研究系ではSELENE衛星に搭載される MAP観測器を開発しています。MAP観測器は磁場、イオン、電子が高エネルギー・角度・時間・質量分解能で観測可能です。Chandrayaan-1衛星のSARA分析器と相補的に観測を行い月外圏の物理に迫れれば、と思います。

(浅村和史、あさむら・かずし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※