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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第105号

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ISASメールマガジン   第105号       【 発行日− 06.09.12 】
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★こんにちは、山本です。

 SOLAR-B/M-V-7号機のカウントダウンページ
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/j/countdown/index.shtml)では、内之浦の様子を随時更新しています。
その中に、<M-V-7号機打上げシーケンス>の図があります。

打上げ当日は、その<シーケンス>を参考にライブ中継をご覧になると、 M-V-7号機打上げ経過時間で、
「あっ、もうすぐ第2段モータの点火ね!」
とか
「衛星分離だ!」
等、お楽しみいただけます。

 今週は、固体惑星科学研究系の北里宏平(きたざと・こうへい)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:台湾でふたたび小惑星イトカワを
☆02:M-V-7号機のフライトオペレーション始まる
☆03:小惑星も日焼けする
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★01:台湾でふたたび小惑星イトカワを

 台湾には意外にも急峻な山があります。台湾島のほぼ中央部に位置する標高3952mの玉山(ユイシャン)。緯度としては年中温暖な亜熱帯気候に属しますが、標高が高いため冬期には積雪をみることもあります。そこから少し西に下りた阿里山(アリシャン)国立公園に台湾中央大学の鹿林(ルーリン)天文台はあります。周囲には優雅な山稜を誇る山々が見事なまでに連なっており、ここから見渡せる風景は最高です。わたしたちはこの天文台に設置されている大型望遠鏡を使って、ふたたび小惑星イトカワを観測しようと計画しています。

 さて、はやぶさ探査機が小惑星イトカワに到着してからまもなく一年が過ぎようとしていますが、そのイトカワが今度は地球に近づいてきています。
去年の今頃、イトカワと地球との距離は約3.3億kmほどありました。現在ではその距離が2.5億kmにまで縮まっています。さらに今年の12月には一気に0.8億kmの距離まで接近し、地上から望遠鏡を使ってその姿をとらえることができるくらいにまで明るくなります。残念ながら、19等級ほどの明るさでしかありませんので人間の眼で直接観察することはできません。こころの眼でみることはできるかもしれませんが…

 ふたたびイトカワを観測するといっても、はやぶさによって散々調べ尽くされたのでもう観測しなくてもと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は科学的にはまだまだ重要な情報が眠っているのです。小惑星がそれぞれに固有の自転運動をしているということは周知の事実ですが、近年の理論的な研究から、この小惑星の自転が表面の熱輻射の影響によって速くなったり、遅くなったり変化するといわれています。このような現象をYORP(ヨープ)効果といいます。

 この原理を少し考えてみるために、両手を横に広げて立っている人を想像してみて下さい。この人の正面には光源となる照明があるとします。それでは、この人が右の手のひらをやや上に傾けた感じで開いて、左の手のひらを照明に対して垂直にした格好で開くとどんなことがおこるでしょうか。まず、お互いの手のひらに照明の光があたります。そのため、手のひらには衝突する光子によって後ろに押そうとする力と、暖められた表面から放出される熱エネルギーによってこれまた後ろに押そうとする力が加わるようになります。

 このとき、右の手のひらは照明に対してやや傾けた状態にあるので、左の手のひらに比べてこれらの力が小さいことがわかります。つまり、右手にかかる力よりも左手にかかる力の方が大きければ、回転する力が生まれるということが理解できますね。次に、同じ格好をしたもう一人の人がこの人と背中を合わせて立つとどうなるでしょう。

 この状態は上から見るといわゆる点対称な状態になっています。つまり、お互いの背中を軸にくるっと半回転しても同じ状態になるということです。もうお気づきかと思いますが、このような状態でくるくる回っていると、常に一方の方向に力が加わり回転力が生じるようになりますね。

 地球や月のように球形なものにはこのような回転力は生じませんが、形状が歪な小惑星の場合は、この回転力が自転運動に影響を与えてしまうわけです。この力は非常に小さなものですが、長い年月を経て積み重なっていくと観測で検出できるほどの変化量になります。イトカワは、みなさんご存知の通りラッコのような非常に歪な形状をしており、はやぶさが探査したことによって詳細な形状がわかっていますので、自転運動の変化量を測定して小惑星表面の熱物性を理解することができるとわたしたちは考えています。はやぶさではこれまで近赤外線分光器や理学カメラのチームメンバーとして関わってきましたが、イトカワ(先生)には、これからも科学的に興味深いことをたくさん教えてもらえそうです。

 ちなみに、自慢ではありませんが、わたしは以前に台湾で30年に一回という記録的な大雨と、50年に一回という記録的な大雪に遭遇し、観測はもとより帰国予定日に下山できなくなったという経験をもっています。今回ばかりは天候に恵まれますよう、そらに向かって祈るばかりです。

(北里宏平、きたざと・こうへい)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※