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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第102号

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ISASメールマガジン   第102号       【 発行日− 06.08.22 】
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★こんにちは、山本です。

 先週、先々週と『夏休みモード』などと書いていましたら、『風邪』を引いてしまいました。

 体温の調節が上手く出来なくなり、39.2℃なんて体温計の表示を見てしまいました。ついでに咳も止まらず、脇腹や背中が筋肉痛となり、『踏んだり蹴ったり』の1週間でした。

 月曜日に久しぶりに相模原キャンパスに出勤してきて、休暇中の仕事の山に少しウンザリしています。

 今週は、固体惑星科学研究系の安部 正真(あべ・まさなお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:惑星と小惑星と彗星
☆02:M-V-7号機第2組立オペレーション始まる
☆03:はやぶさサイエンスウィーク報告
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★01:惑星と小惑星と彗星

 現在、チェコのプラハで開催中の国際天文学連合で、惑星の定義について議論されています。最終的にどういう結論になるのかについては、現時点では分かりませんが、現在提案されている定義によると、惑星とは「恒星の周りを回っている、自らの重力で丸くなるくらい大きな、恒星でも衛星でもない天体」ということのようです。

 このような議論の発端は、最近冥王星より大きな天体(2003UB313)が発見され、この天体を第10番惑星と認めるかどうかの議論があったこと、がきっかけだと思われます。それ以前にも、冥王星の軌道付近には、10年ほど前から数多くの小天体(エッジワース・カイパーベルト天体)が発見されてきており、冥王星もそれらの天体の一つにすぎないのではないか、という議論がありました。

 今回の惑星の定義が認められると、これまでの9つの惑星のほかに、新たに3つの天体が惑星と呼ばれるようです。そのうちの一つは2003UB313ですが、残りの2つはこれまで冥王星の衛星と呼ばれていたカロンと、これまで小惑星と呼ばれていたセレスです。

 カロンは当初衛星として発見されましたが、その後、冥王星とカロンの大きさや質量が観測によって明らかになってくると、カロンが冥王星の周りを回っているのではなく、カロンと冥王星が両者の共通重心を中心に回っている、連星(二重惑星)のような存在であることがわかっていました。

 セレスは1801年に発見された小惑星です。発見当時はティティウス・ボーデの法則に対応する場所である、火星と木星の間の軌道を回っていることから、新たな惑星の発見か、と言われました。しかし、翌年には、パラスという天体が発見され、その後も、同じく火星と木星の間の軌道を回る別の天体が次々と発見されました。そして、大きさも他の惑星と比べると小さいことから、これらの天体は惑星とはされず、小惑星として扱われてきました。それが今回再び惑星として復活するチャンスがめぐってきた、ということのようです。

 今回定義されようとしているのは惑星ですが、実は小惑星の定義もあいまいです。小惑星は一般的には、「恒星の周りを回っている、見た目が彗星ではない、恒星や惑星や衛星でもない天体」ということになると思いますが、この定義では、小惑星と思っていたものが彗星である場合や、その逆もあり得ます。実際、ウィルソン・ハリントンという小惑星は、当初彗星として発見され、その後小惑星として再発見されています。逆に小惑星キロンは、発見後に、彗星としての活動が認められ、彗星としても分類されています。

 つまり、太陽系の天体の中には、彗星と小惑星の両方に分類されている天体があるということです。また、今回の惑星の定義によって、現在小惑星とされているものの中にも、今後大きさや形がはっきりしてきて、惑星と定義されるものもあるかもしれません。

 私たちは物事を分類するときに、まず見た目で分類します。しかし、その後新たな情報が加わって、その分類がうまくいかなくなると、その物事の本質についてもう一度考え直して定義し、分類しなおすことがよくあります。今回の惑星の定義もそのような段階にいたったのだと考えられます。

 小惑星と彗星についても、私たちはまだその本質について理解していません。太陽から離れた距離にいる小惑星は、太陽から離れて表面が冷たいため、彗星のようなコマや尾を形成していないだけかもしれませんし、小惑星と彗星は構成する物質が違うのかもしれません。

 「はやぶさ」の探査によって、小惑星のことがいろいろとわかりましたが、小惑星にはいくつかの種類があり、今後も小惑星の探査を続け、それらの探査を通して、太陽系のはじまりやおいたちについて明らかにしていきたいと、私たちは考えています。そのなかで、小惑星と彗星の違いについても明らかになってくると思っています。

 小惑星にはいくつかの種類があると書きましたが、それは反射スペクトルという、いわゆる小惑星の見た目の色の違いで分類したものなので、小惑星が本当は何でできているのかは、実はまだ推測でしかないのです。

 小惑星を構成する物質は、地球に落ちてくる隕石の分類との対応づけを行って推測していますが、全ての種類の小惑星に対応する隕石が見つかっているわけではありません。対応付けられているものも、主に反射スペクトルと呼ばれる見た目の色で判断されているものがほとんどです。

 私たちは、小惑星を直接探査することで、小惑星を構成する物質を明らかにしようとしています。「はやぶさ」はS型に分類されている小惑星「イトカワ」を探査しました。S型のSはStony(石質)に由来しています。S型小惑星はこれまでパラサイトと呼ばれる石鉄隕石や、始原的エイコンドライトと呼ばれる石質隕石や、普通コンドライトと呼ばれる石質隕石などと対応付けられてきましたが、「はやぶさ」の探査では、普通コンドライトに対応している、という結果が得られました。普通コンドライトは地球に最も多く落ちてくる隕石です。

 私たちは、S型の次はC型を探査したいと考えています。C型はCarbonaceous(炭素質)に由来しています。C型は火星と木星の間の軌道にある小惑星帯の外側で多く見つかっている小惑星で、地球に落ちてくる隕石では炭素質コンドライトと対応付けられています。S型は小惑星帯の内側で多く見つかっている小惑星だったので、SとCの両方を探査することで、両者の本質的な違いを理解し、小惑星帯の小惑星を大雑把な様子をつかむことができると思っています。

 さらに、その次は、P型やD型など、まだ隕石との対応づけができていない小惑星を狙いたいと、考えています。これらの天体は彗星の核と関係しているのではないかと言う研究者もいます。P型やD型の天体は、小惑星帯のさらに外側の軌道や木星軌道に多く存在していて、太陽系のさらに外側の様子を知ることにつながると同時に、彗星と小惑星の関係を明らかにすることもできる可能性があります。

 「はやぶさ」は今、地球への帰還に向けて運用を続けています。現在の地球帰還の予定は2010年です。「はやぶさ」がまだ地球に戻ってきてもいないのに、次の探査やさらにその次の探査のことを考えるのは、早すぎるという人もいるかもしれません。

 しかし、「はやぶさ」の計画が正式にスタートしたのは今から10年も前のことです。計画の構想はさらに10年前から始まっていました。惑星探査は計画の開始から、実際に探査機が打ち上げられて、目標の天体まで到達するまでに、非常に時間がかかります。「はやぶさ」が目指しているサンプルリターンになると、さらに探査機が地球に戻る時間もプラスされます。一つの探査計画が終わってから、次を準備していたのでは遅すぎるのです。

 ただし、一つの探査計画が完了する前に、次の探査を計画するためには、それぞれの探査のつながりを良く考えておく必要があります。それは、科学的に明らかにしていきたい事柄のつながりだけでなく、技術的なつながりも含まれます。「はやぶさ」でこれまで得られた科学的や技術的な成果を踏まえて、次やその次につながる探査計画を、現在多くの人たちと検討しています。

(安部 正真、あべ・まさなお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※