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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第98号

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ISASメールマガジン   第098号       【 発行日− 06.07.25 】
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★こんにちは、山本です。

 梅雨末期の大雨で全国的に被害が広がっています。読者の皆さまの地域では如何でしょうか。早く梅雨が上がって、これ以上の被害が起きないように願っています。

 今週末はISASの一般公開です。全国から相模原にみえる皆さんにとって、気持ちよく過ごせる天気であって欲しいと願っています。

 今週は、きみっしょん事務局長の田村健一(たむら・けんいち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:きみっしょん ---- 『TA』も頑張ってます。
☆02:宇宙研で学ぼう(総研大)
☆03:総研大宇宙科学専攻の説明会開催
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★01:きみっしょん ---- 『TA』も頑張ってます。

 今、鹿児島県の内之浦宇宙観測所に来ています。X線天文衛星「すざく」の運用当番の合間を縫って、このメールマガジンを書いています。最近の内之浦は、晴、雨、雷、曇、霧、風と天候が目まぐるしく変わります。特に落雷が多く、そのために地上のアンテナと衛星との通信を控えることもあり、 緊張感の漂う日々が続いてきます。

 自己紹介が遅くなりました。私は、宇宙研のX線グループに所属する博士課程2年の大学院生です。このメールマガジンでも何度か宣伝していただいた「君が作る宇宙ミッション(略して、きみっしょん)」の事務局長を務めています。

 「きみっしょん」とは、全国から集まった高校生、約20名が宇宙研に4泊5日の合宿をし、4班に分かれて、自分たちの実現したい宇宙ミッションを計画するという、教育プログラムです。例えば昨年は、木星の衛星「エウロパ」に探査機を飛ばして、生命を探し出すというミッションを計画した班がありました。「エウロパ」の地表にある数kmの氷の層を掘って、より生命発見の可能性の高い液体の水の層までいかにたどり着くかに腐心していたようです。計画したミッションは、合宿の4日目の夕方に、宇宙研の教授、助手から大学院生に至る大多数の聴衆の前で発表し、実際の研究者に批評し ていただくことができます。
(詳しくは、 新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/kimission/をご覧ください。)

 このようなミッションの計画は、単なる夢物語で終わってしまってはいけません。実現するためには、どんな点が困難であるのかを具体的に導き出し、解決策を提示することが大切です。

 例えば、10万光年離れたブラックホールの近くまで行ってみる、と一言でいっても、現在の科学力ではどのくらいの時間がかかるのか、現実的な時間でブラックホールまで行くためにはどのくらいの推進力のエンジンが必要で、どういったシステムを使えば可能になるのか、といったことをきちんと定量的に計算して、示していく必要があります。これは、高校生に対して、少し高レベルな要求かもしれません。しかし、宇宙ミッションの醍醐味は、必要な技術項目の1つ1つをきちんと数値化して、緻密な計算の結果の上に壮大な夢を実現することにあるのです。そして、この醍醐味の一部を高校生にも味わっていただきたい、というのがこの企画の主旨でもあるわけです。

 とは言いましても、1週間にも満たない短期間の間に、高校生だけの力で、高レベルのミッション計画をすることはなかなか難しいと思います。そこで、宇宙研に所属する大学院生が、TA(Teaching Assistant)となって高校生の手助けをします。TAは高校生と対話を繰り返し、高校生はその対話の中から自発的に解決策を見出していきます。高校生と比較的歳の近い大学院生が対話の相手をすることで、早い段階で打ち解けることができますし、進路の相談にも乗ることができます。

 TAの中には実に様々な学生がいます。一度会社に就職してから、やっぱり宇宙の研究をやりたい!と思って、宇宙研に来ている学生がいます。また、高校の教員経験を持つ学生がいます。さらに、すでに結婚している学生も少なからずいるわけです。時には土日に「きみっしょん」の打ち合わせを行なうこともあるので、夫婦喧嘩の原因にならなければいいなぁと、余計な心配をしてしまいます。

 さて、今年もおかげさまで多数の高校生からの応募がありました。応募方法は、作ってみたい宇宙ミッションという題目で、原稿用紙2〜3枚の作文を書いていただくことです。高校生は力を入れて作文を書いてきますので、我々TAも必死で読みます。今年はTA1人1人が、全員分の作文を読んで、選考しました。もちろん自分達の本分である研究活動が最優先ですから、多くのTAは休日返上で取り組んでいます。高校生の夏休みの貴重な1週間がかかっている訳ですから、当然のことと言えば当然のことです。

 今年の作文も、実に読みごたえがあるものばかりでした。宇宙観測、宇宙開発に対して良く勉強していることが分かりますし、柔軟でおもしろい発想するなぁと感心させられます。
今年の作文の中で、印象に残っているものがあります。それは、宇宙のどこかの星に水族館を作る、というミッションでした。ポイントは、地球とは極端に異なる環境で、植物や動物をきちんと育てることができるかどうかです。ちょうど、今年のきみっしょんの担当の先生である、黒谷明美先生の研究テーマとつながるために、作文を読みながら「ニヤリ」としたものです。私が感心させられたのは、植物や動物を育てるのは、食料のためではなく「癒し」のためだと主張していた点です。将来、他の星への移住が実現して、人間にとって大きな問題の1つとなりうるのは、いかに精神的に安定な状態を保つか、かもしれません。テレビのニュースで、戦争に行った兵士が発狂してしまう、ということを聞かされると、極限的な状況下でいかに正常な神経でいられるかが、宇宙開発においても、本質的に重要な問題なのではないかと考えさせられます。この高校生の作文は、その点を鋭く指摘しています。

 6月中に作文による選考を終えて、すでに選考結果を応募してくださった高校生のみなさんにお知らせしました。(残念ながら合格とはならなかったみなさん、本当にごめんなさい!みなさんの作文はどれも、楽しくかつ真剣に読ませていただきました。レベルの高いものもたくさんあったと思います。ぜひとも来年も応募してくださいね!)

 現在、「きみっしょん」当日に向けた準備は次の段階に移っています。
それは、高校生のみなさんが宇宙研に来る前に、TA自身も「お勉強」することです。その一環として、6月の下旬から7月の上旬にかけて、TA向けの講義を実施しました。これは、「はやぶさ」、「すざく」、「あかり」といった、現在活躍中のミッションを実現に導いた先生方から、直々に講義していただくというものです。これによって、単に幅広い知識を得るだけではなく、ミッション実現のためにどういった点を注意深く考えなければならないのかを嗅ぎ分ける嗅覚を身につけます。そして、TAにとっては普段接する機会のない偉い先生方に直接質問することができたりするので、自分の研究生活にも良い刺激になります。

 またその他にも、宿舎や食事の手配、当日の細かいスケジューリングなど、着々と準備を進めているところです。

 それでは、高校生のみなさん、お気をつけて宇宙研にいらしてください。TA一同、首を長くしてお待ちしています!


(田村健一、たむら・けんいち)

 きみっしょん については
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/kimission/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※