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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第95号

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ISASメールマガジン   第095号       【 発行日− 06.07.04 】
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★こんにちは、山本です。

 新しい企画として、読者の皆さんから戴くメールをWebに掲載するページを作ろうと考えています。
乞う御期待!

 今週は、技術開発部の田村 誠(たむら・まこと)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:M-Vロケットの誘導制御とモーションテーブル試験
☆02:月周回衛星SELENEシンポジウム 参加者募集!
☆03:スピッツァー宇宙望遠鏡によるクェーサー3C273の相対論的ジェ ットの観測
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★01:M-Vロケットの誘導制御とモーションテーブル試験

 M-Vロケットでは毎号機の打上げ前に「モーションテーブル試験」と呼ばれる試験を相模原キャンパスで実施しています。今年度夏期に打上げが予定されているM-V-7号機(太陽観測衛星SOLAR-B)のモーションテーブル試験がついこの間5月8日〜6月16日まで1ヶ月間以上をかけて行われました。

 モーションテーブル試験の目的は、実際にロケットに搭載される制御機器(姿勢センサや制御計算機)がうまくロケットを操縦できるかを確認することです。飛行機で言えば操縦士の認定試験のようなものですね。

 モーションテーブル試験について説明する前にM-Vの誘導制御について説明したいと思います。ロケットを操縦して人工衛星や惑星探査機を予め決められた軌道に打ち出すことを誘導制御と呼びます。M-Vは全段固体燃料のロケットであり、固体燃料は液体燃料と違って一度火をつけると途中で火を消したり再点火したりすることができず推進力を自由に調節できません。これはアクセルをずっと踏みっ放しの自動車を運転するようなものであり、固体燃料のロケットは誘導制御(操縦)が難しいと言えます。

 M-Vの操縦はどのように行われているのでしょうか?M-Vは予め決められたのコースの上をずっと飛ぶように操縦されるとは限りません。実は、発射からの経過時間によってロケットが向くべき方向(姿勢)が予め決められているだけなのです。これをプログラム誘導と言います。もちろんロケットが予定のコースを飛ぶように姿勢のプログラム(目標姿勢の計画)は組まれますが、推進力の変動や風などによって姿勢が乱されてコースを外れてしまうことがあります。そこで、もし予定のコースからずれていたら、地上局から姿勢のプログラムを修正する電波指令が数回に限り送られます。これを 電波誘導と言います。

 プログラムされた姿勢にロケットを向ける(姿勢を制御する)のには可動ノズルとガスジェットが用いられます。可動ノズルについては森田先生によるメルマガ043号に詳しい説明があります。

 それではモーションテーブル試験についてお話したいと思います。モーションテーブルというのは試験に使用する装置の名前です。テーブルは三次元的に自由に回転させることができるので、これに姿勢センサ(ジャイロ)を乗せてロケットの姿勢を模擬することができます。テーブルが回転すると姿勢センサがその動きを感知してロケットの制御計算機へ姿勢の変化量を信号で送ります。計算機はその信号からロケットの姿勢を計算して、目標姿勢からずれているとそのずれを修正するためにノズルをどのように動かせばいいか、どのガスジェットを噴けばいいかを計算します。計算結果は制御指令として可動ノズルやガスジェットの駆動装置(アクチュエータ)へ送られます。

 実際のロケットならば指令通りにアクチュエータが動いてロケットの姿勢が変化するわけですが、ここでは代わりにモーションテーブルを動かす計算機が指令を受け取ります。この計算機はその指令からロケットがどのように動くかを瞬時に計算し、その計算結果に従ってテーブルを回転させ、再びテーブル上の姿勢センサがその動きを感知します。このような一連のサイクルが延々と続いていくことによって実際の打上げでロケットがどのように操縦されるかをシミュレーションすることができるというわけです。

 シミュレーションはロケットの操縦に影響を及ぼす不確定な要因(風、燃焼速度のばらつき、下段分離時の姿勢の乱れなど)をいろいろと想定して実時間で行われます。例えばロケットの3段目飛行ではシミュレーションケースが20ケース程あり1ケースを行うのに長い時では30分以上を要します。このように長い時間をかけて試験は行われるのですが、全ての試験ケースをパスして初めて搭載される制御機器がM-Vの操縦士として認められることになります。

 7号機のモーションテーブル試験も無事に終了し、打上げに向けて一歩前進といったところです。これから制御機器は内之浦へ運びこまれてロケットの機体に組み込まれて打上げに臨みます。

 実際の打上げでもモーションテーブル試験のときと同じように問題なくM-Vを操縦し、SOLAR-Bの打上げを含む全てのミッションが成功することを願うばかりです。

(田村 誠、たむら・まこと)

ISASメールマガジン第043号(TVC(ロケットの推力の向きを変える仕組み)の話)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2005/back043.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※