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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第85号

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ISASメールマガジン   第085号       【 発行日− 06.04.25 】
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★こんにちは、山本です。

 2週間くらい前には雨模様の日が続いて、「菜種梅雨(なたねづゆ)」などと言っていたのに、この頃は、もう初夏のような陽気になってきました。

 日中の暑さに浮かれて薄着で出歩いていると、夜になって急に気温が下がって、上着もなく風邪を引きそうになりました。

 先週話題に出た「ドォーモ」(九州朝日放送)ですが、ASTRO-F(あかり)のプロジェクトマネージャーの村上先生にも何か書いていただかないと、ということで早速交渉に行ってきました。近々登場予定です。

 読者の皆さま、乞う御期待!!

 今週は、宇宙探査工学研究系の曽根理嗣(そね・よしつぐ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙の電池屋 右往左往
☆02「講演と映画の会」、立ち見も出る大盛況
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★01:宇宙の電池屋 右往左往

 宇宙科学研究本部で電池の研究をしている曽根と申します。

 私たちは宇宙に挑んで、衛星を軌道投入し、運用して初めて成果を問われます。色々な人たちの希望をかなえることが使命の基盤技術にかかわる者としては、打上げのたびに身が引き締まります。ただ、しかし、皆さんわがままで、困ります。

 「こんなことしたい」、「あんなことしたい」といわれますが、すべてエネルギーを必要とします。特に、地上から離れる世界ですから、エネルギーのストックはすべて自前でする必要があります。そのため、バッテリ技術が必要となります。

 衛星は宇宙に出てからの環境に合わせて設計がされます。一方、地球上にいるときにはクリーンルームの中や、打上げ場の環境温度で管理されることになります。

 電池というのは、日常生活で日々お世話になっていながらあまり印象にないかもしれませんが、性能に対して大変に温度の影響を受けやすい装置です。皆さん、スキー場で、どうもカメラのバッテリが「あがりやすい」経験をしたことがありませんか?冬は車のバッテリも「あがりやすい」ですよね。

 温度が下がると電池の中で使っている電解液中のイオンが動きにくくなります。インピーダンス(抵抗)があがってしまうので、放電するときに電圧が下がってしまって、結果的にカメラや車が動かなくなってしまいます。逆に温度が高いと今度は充電したときの自己放電を起こしやすくなったり、また、そもそも充電しにくくなったりすることもあります。(電池の種類にもよりますが)

 宇宙機においては、宇宙空間を想定して、その環境でもっとも効率よく運用するよう、電池の設計をしますし、宇宙機内の温度環境制御を行います。たとえばよく使われるニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池の場合、宇宙機の中での電池の温度環境を10〜20℃の間に入るようにヒータをオン/オフしてもらったりします。ただ、射場にあるときには、事情が変わります。

 先日、「あかり」の打上げに行ってきました。「とにかく何があっても良いように、めいっぱい充電してください」とのご希望を承りました。私がお酒を飲んでマイクを握ると「エネルギー充電120%!(宇宙戦艦ヤマトより)」と叫ぶのを皆さん知っているので、「120%充電、いきましょう」なんて言います。冗談かと思うと、結構まじめな顔をして言っています。

 打上げ直前の充電では、衛星がロケット搭載状態にあります。このときは衛星の外側を覆うフェアリング内に空調をかけて温度管理をするのですが、可能な限り温度を下げてもらいました。でも、なかなか期待するほど劇的には温度が下がりません。挙句に、あかりで使っている電池は充電をすると温度が上がります。温度があがったら下がるまでまって、また充電して……

 充電と充電の合間に食事、仮眠。「だれか俺も充電してくれ〜」と心の中で叫びながらの悪戦苦闘。電源屋一同の苦難は報われ、無事に宇宙に送り届けたることができました。

 上がった衛星は、今度は、いかにして長い間運用を続けられるかが大事。電池が枯渇すると衛星が死んでしまいます。何があっても駆けつける。これも電池屋の勤めです。

 宇宙探査の屋台骨との自負と誇りで、今日もがんばる「宇宙の電池屋」。

(曽根理嗣、そね・よしつぐ)

 メルマガ第010号:宇宙の電池屋
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2004/back010.shtml

 メルマガ第056号:東奔西走
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2005/back056.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※