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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第78号

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ISASメールマガジン   第078号       【 発行日− 06.03.07 】
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★ こんにちは、山本です。

 先日M先生に会った時のことです。遠目にマスクをしているように見えましたので、
「先生、風邪でもひかれたんですか?」と尋ねたところ、
「周りにインフルエンザの人が多くて、マスクをしていないとインフルエンザの菌が侵入してくる感じで」との返事が返ってきました。
デモ、折角の立体マスクが隠しているのは口だけで、鼻はむきだしのままです。
「意味ないジャン!!」のツッコミは、私の頭の中だけにしておきました。

 今週は、宇宙プラズマ研究系の阿部琢美(あべ・たくみ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ロケット打上げ実験の「気象班」??
☆02:「あかり」の運用状況について
☆03:M-V-8号機搭載のサブペイロード実験の結果について
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★01:ロケット打上げ実験の「気象班」??

 メールマガジンへの登場も3回目となりました。
 私が携わっている仕事として1回目は小型の観測ロケット、2回目は金星探査計画の2つのプロジェクトを紹介しましたので、今回は「気象班」に関するお話をしたいと思います。

 JAXA宇宙科学研究本部に気象班が存在するなんて、不思議に思われるかもしれませんね。この気象班の役割は内之浦にある宇宙空間観測所からロケットを打ち上げる時に天候を予測することです。ロケットの打上げに際しては天候、風、雨量等さまざまな気象条件を考慮しなくてはなりません。そしてこれらの条件を予想するのが気象班の仕事なのです。そして、宇宙科学研究本部の主として地球物理学を専門とする研究者が、ロケットの打上げに際し気象班としての役割を担ってきました。つい先日行われたM-V-8/ASTRO-Fの打上げに、私は気象班として参加してきました。

 気象班の仕事はこの先数日間の天候を予測することです。M-Vのようなロケットの場合は打上げ当日の天候だけではなく、電波テストと呼ばれるリハーサルや、頭胴部を建物から外に出す場合には必ず天候予測をしなくてはなりません。当日の予想は勿論のことですが、予報のためにはその前数日間は神経を使うことになります。こうしたイベントは数日毎にやってくるので、気象班は休むことが出来ないのです。

 ロケット打上げ前のフライトオペレーションでは実験班員共通の関心の的は天気です。ですから、気象班員と顔を合わせると必ず「どうですか」の声がかかります。こんな場合、例えその時に良い条件が無くても、我々は人々の士気を落とさないよう気をつけて状況を伝えなくてはなりません。

 ラジオかFAXでしか気象情報が入手できなかった昔日とは異なり、現在ではインターネットがローカルな気象情報まで教えてくれます。だから誰でも情報入手が可能な中で気象班としての予測をしなくてはならないのです。M-Vロケットを打ち上げる内之浦宇宙空間観測所は内之浦の町と小さな山を隔てちょっと離れた位置にあります。いくらインターネットでも、そこまで局地的な予報はしていません。こうした局地的な予報をするのが気象班の腕の見せ所です。

 でも、気圧配置を見ても本当に判断に迷うことはあるのですよね。かつての気象班の誰かが持ち込んだのか、気象班の机のそばには下駄が置いてあります。表や裏に晴れ、雨、曇りなどと書かれた下駄が。昔の気象班も下駄を投げていたのでしょうか? 不謹慎なと思われるかもしれませんが、すがりたくなる気持ちがわからないではないですよね。また、ロケットの打上げが近くなると気象班のまわりには、てるてる坊主が飾られるようになります。困った時の神頼み。

 皆さんご存知の通り予報っていうのは当たる時とそうでない時があるのですよね。気象庁の予報だって当たらない事もある。予報通りになった時は良いのですが、当たらなかった時に気象班に向けられる非難たるや...。これが気象班の辛い瞬間。

 また、例え予報どおり雨が降ったとしても気象班は責任を感じなくてはなりません。「天気が悪いのは自分達のせいじゃない」という言葉は気象班にとっては禁句です。天気が悪くロケットの打上げが出来なかったら、それは気象班の責任なのです。そんな時に理屈をこねてはいけません。そういう理不尽に耐えられる人が気象班になる資格をもっているのです。気象班の一番重要な役割は、気象に関するあらゆる不満の捌け口になることだから。

 ASTRO-F衛星の打上げ初日(21日)に向けて、気象班は降雨確率10%という予報を出しました。しかし、打上げ予定時刻が近づくにつれて局地的な雨雲が運悪く内之浦上空に。結局、初日の打上げは中止ということになってしまいました。(おっと、運悪くという言葉も使っちゃいけないのでした)翌22日、天候は安定し、雨雲も見えません。どうやら気象班へのプレッシャーも今日は少なめ。そして、6時28分のM-Vロケットの打上げ。バンザーイ。

(阿部琢美、あべ・たくみ)

ASTRO-F衛星プロジェクトページ
http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※