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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第74号

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ISASメールマガジン   第074号       【 発行日− 06.02.07 】
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★ こんにちは、山本です。

 立春を過ぎたのに未だ寒い日が続いています。今朝ISASで見たのは、ハクセキレイです。何かエサでも見つけたのか、ガサゴソと茂みの中から出てきました。ロッジ前のカツラの木からは、キツツキが木を叩くリズミカルな音も聞こえてきました。何の鳥か、スズメやオナガではない泣き声も聞こえます。やっぱり、春はもうすぐそこまで来ているのですね。

 先週の『宇宙人の標本』に、数人の読者から『宇宙人ではなくて、宇宙塵(うちゅうじん)では?』というメールを戴きました。ウ〜〜ン、ナルホド。

 しかし、私が『宇宙塵』と言われて思い浮かぶのは、超(?)有名なSF同人誌です。星新一、小松左京、筒井康隆、光瀬龍…… やっぱり オタクの発想でしょうか?

 今週は、宇宙探査工学研究系の久保田孝(くぼた・たかし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「はやぶさ」開発奮闘記(ターゲットマーカ篇)
☆02:ASTRO-F/M-V-8、打上げは2月21日(火)に
☆03:TV@ISAS
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★01:「はやぶさ」開発奮闘記(ターゲットマーカ篇)

 2005年11月に小惑星への着陸・離陸を成し遂げた工学実験探査機「はやぶさ」には、新しい技術がたくさん盛り込まれています。今回は、その中で探査機の着陸誘導に重要な役割を果たした「ターゲットマーカ」の開発について紹介します。

 小惑星探査ミッション「MUSES-C」の計画当初は、搭載されたターゲットマーカの姿はありませんでした。探査小天体は自転をしている可能性が高いため、探査機が着陸して安全にサンプルを採取するためには、自転による横方向速度をキャンセルして表面と同期する必要があります。そのため、当初は、電波源を表面に投下して誘導しようと考えていました。しかしながら、電波源には電源が必要であり、熱設計や重量の面から得策でなく、また高い誘導精度も期待できません。そこで次に考えたのは、画像処理技術を使うことです。画像を数枚取得すると表面の地形が動いて見えるので、その模様の動きから相対速度を検出することができます。これなら航法用カメラのみで検出できるため、余分なリソースはいりません。しかしながら、表面の地形や照明条件により、その地形の見え方に不確定性があるため、本方式はバックアップとして採用しました。地形の特徴がなく真っ白な場所でも、確実に横方向速度を検出できる方式を考案する必要があったのです。

 航法誘導チームで案を出しあった結果、人工的な目印(ランドマーク)を用いる案が有望となりました。そこで小惑星表面に確実に静止し、探査機のカメラで認識可能で、小型軽量かつ信頼性の高い「ターゲットマーカ」の開発に取り組みました。模様を描いたプレート型や手裏剣型、風呂敷のような展開型などなど、いくつも案が出ましたが、縦に刺さってしまうケースや模様が砂で隠れた場合などを考えるとそれぞれ一長一短でした。いろいろなアイデアの中で注目を集めたのがお手玉でした。小惑星表面に確実に静止するためには、ターゲットマーカは低反発(反発係数0.1以下)である必要があります。お手玉を壁にぶつけると跳ね返ってきません。これは微小重力でも使えるかもしれない。公募地上研究「無重力下での衝突ダイナミクスに関する研究」で物体の多重衝突によるエネルギの散逸効果に関する基礎的な検討をしていました。その知見から、お手玉は衝突すると内部のビーズがお互いに何度もぶつかってエネルギを散逸し、結果として運動エネルギを減らす効果があることがわかりました。実際に布袋にビーズを入れて無重力落下実験をしたところ、みごと低反発を実現できました。

 ところが、ターゲットマーカの最終確認試験のところで、思わぬ現象が起きました。布袋をつぶした状態で衝突させたところ、反発係数が大きい値になったのです。中のビーズが移動できず、エネルギ散逸が起きなかったわけです。開発は振り出しに戻りました。分離時の初期条件はコントロールできないので、布袋をあきらめて薄いアルミの剛球に変更しました。剛球は変形することなく、また回転しながら分離しても衝突条件を合わせることができます。しかし製作したアルミボールを見ると、本当に低反発かどうか疑いたくなるものでしたが、物理法則のとおり、実験結果は良好で、反発係数0.1以下の低反発ターゲットマーカを実現できました。

 ターゲットマーカを分離する方法にもユニークな方式が用いられています。探査機打上げ時には、確実に探査機に固定されていて、小惑星に着陸前には、ある速度で確実に投下する必要があります。これもいろいろな案を検討しましたが、最終的には、重量制限が厳しい中、確実に分離投下できる機構を考案しました。まずターゲットマーカをワイヤで吊るし、降下時にはそのワイヤをカットして拘束を解除します。そうすると探査機とターゲットマーカは同じ速度で降下し続けます。次に探査機の速度を減速すると、ターゲットマーカだけが同じ速度で降下を続けるので、結果として探査機から離れるという手法です。シンプルですが、信頼性の高い方式といえます。

 ターゲットマーカをカメラで認識する方法には、反射シートを用いました。夜間の道路で反射シートが車のライトに光るのと同じ原理です。小惑星表面がどんなに明るくても検出できるように、ターゲットマーカの表面に反射シートを貼り、フラッシュで照らすという方式を採用しました。ところが、真空中でフラッシュが動作するには、点滅時の熱の問題や高電圧素子による放電の問題など課題がたくさんありました。担当の宇宙メーカと放電管の専門メーカやコンデンサメーカの協力によって、この難問を解決しました。

 2005年11月20日に88万人の署名のはいったターゲットマーカを分離し、その後、探査機は着陸および離陸を行い、11月26日の降下時には、そのターゲットマーカが小惑星表面上で光り輝いているのを確認できました。いままでの努力が報われた感動の時でした。

(久保田孝、くぼた・たかし)

今日の「はやぶさ」
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/today.shtml

はやぶさ」プロジェクトのページ
http://www.hayabusa.isas.jaxa.jp/j/index.html

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※