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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第65号

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ISASメールマガジン   第065号       【 発行日− 05.11.29 】
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★ こんにちは、山本です。
 26日朝、「はやぶさ」が2回目のタッチダウンで世界初となる小惑星の試料採取に(ほぼ間違いなく)成功しました。読者の方たちからは、「おめでとう」「ありがとう」のメールが届いています。「LIVEを見ていたので2週続けて徹夜」して、週明けの仕事は大丈夫でしょうか?

 また、ISASウェブページへのヒット数もうなぎ登りで、25〜26日で2000万件を超えています。ISASウェブページの宇宙ニュースを読んだ方はご存知でしょうが、ページの下にISASメールマガジンへのリンクとバナーが張ってあります。26・27日の両日で310人もの登録があり、配信数が3000件を超えました。昨年ISASメールマガジンを始めるときに立てた目標は、“登録者数が1年間で2000名”でした。目標を超えるまでに13ヶ月掛かりましたが、それからわずか2ヶ月で1000名も増加するとは考えてもいませんでした。

 ありがとう!「はやぶさ」

 さて今週は、「はやぶさ」プロジェクトチーム・固体惑星科学研究系の 安部正真(あべ・まさなお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「はやぶさ」の小惑星試料採取実施、2回目のタッチダウン
☆02:「はやぶさ」のいちばん長い日
☆03:「はやぶさ」小惑星のサンプル採取成功に確信 88万人署名入りのターゲットマーカも発見!
☆04:「れいめい」のオーロラ3色撮像について
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★01:「はやぶさ」の小惑星試料採取実施、2回目のタッチダウン

 11月25日。

 2回目のタッチダウン降下開始の日です。4日に1回目の降下リハーサルを実施してから、9日の画像航法試験での2回の降下練習を含めると今回は6回目の降下となります。前回19日からのタッチダウンの際の緊急離脱で、小惑星から100km程度まで離れてしまったこともあり、今回のタッチダウンが予定通り実施できるかは、ぎりぎりまで分かりませんでしたが、なんとか間に合わせることができました。

 よく考えると、探査機「はやぶさ」がはじめて小惑星イトカワからの距離100km以内に近づいたのは9月10日ごろで、それから20km程度の距離のゲートポジションを経て、7km程度のホームポジションに到達するまでに約1ヶ月を費やしています。それを1週間足らずの短い期間で戻すことができたのも、この2ヶ月間でさまざまな経験と情報を取得できていたからだと思います。

 何度か降下を繰り返すうちに、すこしずつ最接近距離を縮めながら新たな経験をし、それが次の降下へ活かされていきました。姿勢制御に使用する予定だったリアクションホイールの故障の影響で、探査機の打上げ前に考えていたやり方から変更しなければならないこともありましたが、それも克服して前回のタッチダウンで試料採取の実施を除いて、すべての経験をすることができました。

 当日は、降下開始のスタートラインに探査機を導くことができれば、後は前回と同様の手法で降下して、最後の最終降下のところまでいけるという確信はありましたが、降下中に使用するスラスタの調子がおかしいことがわかり、急遽使用するスラスタに制限を与えることなり、探査機にあらかじめ登録しておくコマンド(命令文)を書き換える必要が発生して、ぎりぎりまでその作業は行われました。

 最終的にその作業の終了が確認されたのは、高度約500mからの垂直降下開始の30分前でした。

 垂直降下開始までは、探査機の位置と速度の制御は、主に我々人間が遠隔操作で行いました。小惑星向かう速度は探査機から送られてくる電波の周波数のずれ(ドップラー)を見て把握します。また着地点からの横方向のずれは、探査機から送られてくる画像データをみて把握します。

 探査機から送られてくる情報はどれも16分前(探査機から地球まで約3億キロ離れているので、電波で情報を送るのにこれだけの時間がかかります)のもので、また我々が新たな命令(コマンド)を送っても探査機に届くのはさらに16分後です。したがって、我々は得られた情報から32分後(さらにはその先)を予測して探査機の制御を行う必要がありました。しかしこれらの制御も前回までの降下で実証できていたので順調に実施することができました。

 高度約500mからの垂直降下開始のコマンドを送った後は、探査機の速度制御は探査機自身が高度計の情報などを用いて判断して実施することになっていたので、我々はその後の推移を探査機から送られてくる情報を頼りに把握 するだけとなりました。

 ただし、探査機が約100mの高度になるまでに「降下続行」のコマンドを送らなければ、探査機は自動的に下降を中止して、小惑星から離脱を行うよう仕組まれていたので、我々には最後の重要な判断が残っていました。

 探査機から送られてくる情報を分析して、探査機が予定通りの軌道を予定通りの速度で降下していることを確認した後、「降下続行」の最終判断を川口プロマネ(プロジェクトマネージャー)が行いました。そして探査機に「降下続行」のコマンドを送信しました。その後の探査機は、すべてあらかじめ登録されていた命令に従って動作することになります。

 我々は、管制室や運用室で、探査機から送られてくる情報を見ながら、探査機がその後も予定通りの行動をしているかを見守り続けました。

 高度約40mで探査機が予定通り一旦減速するのが確認されました。

 その後、高度約15m程度で探査機がホバリング(表面との相対速度をゼロにすること)を開始して、探査機の姿勢を表面の傾斜にならわせる動作に入ったことが確認されました。

 探査機が姿勢を表面の傾斜にならわせてしまうと、探査機と地球の信号のやりとりが難しくなるので、詳細な情報の取得を諦めて、ドップラーだけを見ることになっていました。

 ドップラーをみていると、探査機の速度の地球方向の成分だけが分かります。現在探査機は、地球と小惑星を結ぶライン上にいるので、探査機がまだ 降下中か、離脱に転じたのかは把握することができます。

 ドップラーの示す速度が大きく変化しました。探査機が小惑星からの離脱を行ったのは確実です。ただし、探査機が小惑星に着陸する前に離脱をしてしまったのかどうかはこの時点ではわかりませんでした。

 この時刻まで、我々は海外のアンテナを使用して探査機との信号のやり取りを行っていました。地球は自転しているので、1つのアンテナを太陽の向こうの小惑星にいる探査機に24時間向け続けることはできません。したがって、日本にあるアンテナだけで今回の降下をやり遂げることはできず、米国航空宇宙局(NASA)の深宇宙追跡局網(DSN)のアンテナを使用させてもらうことになっていました。

 小惑星離脱が確認できたころには、すでに長野県の佐久市にあるアンテナが使用できる時間帯になっていたので、ここで使用アンテナを切り替えることにしました。

 探査機からの詳しい情報を得るためには、探査機に命令を出して、探査機の姿勢をもう一度地球に合わせるよう指令を出す必要がありました。あらかじめ探査機に登録しておいたコマンドにもそのような命令は送ってありましたが、実施予定の時刻までまだ時間があったので、少しでも早く探査機の情報を得るために、新たにコマンドを送ることにしました。

 そして、そのコマンドを送ってから32分後、探査機からの信号の強度が強くなったのが分かりました。探査機の姿勢が地球に合わせるように動き出したのです。探査機は正常に動作しているようです。後は探査機からの現在の詳細な情報が届くのを待つだけです。

 探査機の情報をみる画面はいくつかあります。最初の詳細な情報がその画面に映し出された瞬間、いくつかの画面の前で「よしっ」、「やった」、という声が上がりました。その画面には探査機が正常に試料採取を実施した後にのみ実行される探査機の状態が示されていました。

 我々が試料採取の成功を確信した瞬間でした。

(安部 正真、あべ・まさなお)

 「はやぶさ」最新情報
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/today.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※