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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第63号

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ISASメールマガジン   第063号       【 発行日− 05.11.15 】
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★ こんにちは、山本です。
 日曜日から「はやぶさ」「イトカワ」「ミネルバ」と、新聞紙上を賑わせています。ISASのホームページでは、「はやぶさ」の情報を毎日更新しています。詳しい情報は、ISAS(http://www.isas.jaxa.jp/j/)や「はやぶさ」プロジェクト(http://www.hayabusa.isas.jaxa.jp/j/)の ウェブページで確認してください。
 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の松原英雄(まつはら・ひでお) さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:one-JAXAだからできる、赤外線天文衛星「ASTRO-F」の打上げ
☆02:「はやぶさ」小型ローバ(ミネルバ)放出
   「はやぶさ」のリハーサル降下再試験の結果について
☆03:ごくろうさま、「はるか」
     − 電波天文衛星「はるか」の運用終了について ー
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★01:one-JAXAだからできる、赤外線天文衛星「ASTRO-F」の打上げ

 ASTRO-Fは、JAXA宇宙科学研究本部を中心に、来年早々の打ち上げを目指して計画が進められている赤外線天文衛星です。日本の衛星搭載赤外線望遠鏡としては、SFU衛星(1995年打上げ)に搭載されたIRTSがありました。ASTRO-Fはこれに続く軌道上赤外線望遠鏡で、単独の本格的な赤外線天文衛星としてはわが国初となります。IRAS衛星(1983年打上げ、アメリカ・イギリス・オランダ)は、赤外線による全天観測を世界で初めて行い、天文学の進歩に大きく貢献しました。
ASTRO-F計画は、IRAS衛星と同様の全天サーベイ観測を、より広い波長域で、はるかに優れた空間分解能と検出能力で実行しようとする野心的な計画です。望遠鏡は口径68.5cmの冷却型で、観測波長は波長1.7ミクロンの近赤外線から波長180ミクロンの遠赤外線までをカバーします。
ASTRO-FはM-Vロケット8号機によって、高度745kmの太陽同期極軌道に打ち上げられる予定です。太陽同期極軌道とはおおざっぱに言って、地球の夜側と昼側の境界あたりをほとんど北極と南極を結ぶように飛ぶ軌道です(一周約100分)。つまり日本の上空はいつも大体朝6時と夕方6時に2回ずつ通過します。

 さて私がメルマガに寄稿するのも2回目になりますが、今回はASTRO-Fが拓く天文学の話ではなく、いかにJAXA全体が一丸となってASTRO-Fの成功のために努力しているか、というお話をしたいと思います。

 実はこの太陽同期極軌道に人工衛星を投入するのは、M-Vロケットにとっては初めてです。その成功には万全を期さなければなりませんが、ここで一つ困ったことがあります。それは、一旦ASTRO-Fが打ちあがったあと、約半日にわたって日本からは見えなくなってしまう、という問題です。これは最初の軌道が楕円軌道で、楕円の日本側の半径が短く、衛星がすぐに日本から見えなくなってしまうためです。しかしこの半日の間に、軌道高度を上げるための増速運用や、姿勢を確保してからの太陽電池パドルの展開など、衛星の生死に関わる重要なイベントが続きます。そこでASTRO-Fでは、衛星が自律的に増速運用の可否を判断する機能を取り入れたり、海外局からの運用支援を検討してきました。ここで言う海外局とは、実は外国の所属ではなく、JAXA宇宙基幹システム本部所属の新GN地上局のことです。2003年10月に宇宙3機関が統合されてJAXAが誕生する前は、この新GN地上局からの運用支援としては、衛星の軌道を決めるための運用(衛星の天空上での位置とその時刻や衛星までの距離の測定)だけ、いわば「受身」な運用のみを考えてきました。それでも、衛星を無事太陽同期極軌道に投入するための運用計画を作ることはできたからです。宇宙3機関統合前、旧宇宙科学研究所と旧宇宙開発事業団の間ではこれが限界だったともいえます。しかし、衛星の打上げ運用では「万が一」ということに備える必要があると思います。絶対にありえない、ということが保証できない以上、最悪の事態も想定しておかなければなりません。この点、打ちあがった後約 半日は衛星に指令を送ることができない、という状態は、リスクがないとは言えません。

 さてJAXA誕生後、「統合追跡ネットワーク」が発足し、旧宇宙開発事業団の地上局を運用するグループと、旧宇宙科学研究所の地上局関係者間の連絡は大変緊密なものとなりました。何しろ同じ機関に所属しているわけで、今まででは不可能に思えたことも現実に可能となりつつあります。つまり、ASTRO-Fに何か不測の事態が生じた時に、新GN地上局の海外局(パース・キルナ・サンチャゴ)を、宇宙科学研究本部の相模原キャンパスの管制センターや内之浦宇宙空間観測所から、リアルタイムで衛星に指令をおくり、衛星からのデータをモニタすることをできるようにする準備が進みつつあります。このメルマガを書いている11月は、つくば宇宙センターに本来は置かれている新GNの試験局が、一時的に相模原キャンパスに引っ越して来ております。そしてこのASTRO-F衛星と、2006年夏の打ち 上げ予定の太陽観測衛星SOLAR-Bとの通信の適合性を確かめる試験をまさに行っているのです。

 このように、JAXA全体で科学衛星を運用する時代がやって来ることはもはや間違いありません。ASTRO-Fがミッションを終えた後、次世代の赤外線天文衛星として、我々は口径3.5mの赤外線望遠鏡SPICAを計画しています。SPICAは大変大きな衛星で、M-VロケットではなくH-IIAロケットで打ち上げられることを最初から想定してるミッションです。このような巨大な計画も、JAXAとなって初めて計画することが可能となりました。その実現のためにも、まずはASTRO-Fの打上げと軌道投入の成功のために、one-JAXAでがんばっていこうと思います。

(松原英雄、まつはら・ひでお)

ASTRO-Fホームページ
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/index.html

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※