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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第55号

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ISASメールマガジン   第055号       【 発行日− 05.09.20 】
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★ こんにちは、山本です。
 ついにISASメールマガジンの読者が2000名に迫っています。この一週間で新規登録者が100名を超えました。「はやぶさ」と「イトカワ」のニュースのオカゲでしょうか。
 今週は、宇宙航行システム研究系の澤井秀次郎(さわい・しゅうじろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:私、「宇宙」に詳しくないです。(エッ???)
☆02:「はやぶさ」が撮影したイトカワの合成カラー画像
☆03:NHK教育で「はやぶさ」放送
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★01:私、「宇宙」に詳しくないです。(エッ???)

 始めにお断りしておかないといけませんが、実は私、「宇宙」というものに詳しくありません。たしかに私は、大学・大学院と「宇宙工学」という看板が掛かっているところに通い、その後、「宇宙科学がどうのこうの」という名前のところで働いていますが、実は、夜空を見上げても、何がどの星なのか、そもそもどういう名前の星があるのか、あまり良くわかっていません。敢えてインパクトのある言い方をすれば、私の中には、「地球」「太陽」「月」「星」の4種類の天体しかありません。

 そんな私がなぜこういうところで働いているのか、改めて考えてみると、それは私が中学生のときのことだったと思います。米国の「スペースシャトル」の最初の打上がありました。その様子をテレビで見た私は、子供心に「こいつは凄いもんだ。ぜひこういうものを自分でも作ってみたい」と思ったことを思い出します。我が家は典型的な文系家族でもあり、私以外はスペースシャトルと言っても全く興味を示していませんでしたが、それ以来、私は家族の中の異端児として、宇宙だの、科学だの、と言った題目の難しい本を、わかりもしないのに買ってきては背伸びして読みふけっていました。
さて、私の人生を変えてしまったそのスペースシャトルですが、客観的に考えると、宇宙を自由に行き来する手段としては、決して最終形態ではなく、輸送コストも当初予想より遙かに高額のため、批判を受けているようです。ただ、当時、(今以上に)宇宙を知らない子供だった私の人生を決めるだけの輝きはあったように思います。

 最近、スペースシャトルに限らず、宇宙では、信頼性とともにコストが大きな話題です。他の全ての活動もそうであるように、宇宙関係の活動を行うためには、必ず「なにがしか」のコストがかかります。そのコストが適正であるかどうか、がキーポイントなのですが、その「適正」の判断は難しいと思います。特に宇宙のように、直接、経済的利益をもたらしにくい活動は意見が分かれると思います。
話は飛びますが、私は制御理論の研究が専門分野です。この分野における最新理論は100年前にドイツで見いだされた数学理論に基づいています。当時のドイツにとって、この理論は全く実利を生み出さなかったのは当然ですし、その理論を打ち立てた本人でさえ、自分の理論がどういうふうに人々の生活に貢献するのか、わからなかったことでしょう。しかし、100年の時を経た現在、この数学理論を元にした制御装置は私たちの生活の中に入り込み、自動車のエンジン制御、飛行機の運航制御のみならず、聞くところによると、最近はエアコンの中にまで入り込んでいるそうです。100年前のドイツが、国力に応じて「ムダ」なことを許容してくれていたお陰で、今日私たちは快適な生活ができている、という側面もあるのです。
これは、いささか都合の良い例かもしれませんが、一見実生活に役に立たないと思えるような活動でも、余力に応じてやっていくことには意味があると私は思っています。ただ、まさに自分がやっていること、宇宙が将来的に「やってくれていてよかった」と、子供の世代、孫の世代から感謝されるかどうか、が問題です。それについては、「私はそう信じています」としか言えないのですが、みなさんはどうでしょうか。

 宇宙のような分野は、例えば「今年度の経常利益は黒字か、赤字か」というようなわかりやすい尺度では測りにくい面があります。こういう「わかりにくい尺度」の分野では、評論と言い訳だけを繰り返していても、何となく活動しているような雰囲気になってしまう恐れがあります。ただ、世の人々は決してバカではありません。たとえ専門外であっても、評論と言い訳しかやっていない集団に対しては、「こいつらはおかしい。金のムダだ」と、(多少時間はかかるかもしれませんが)気づくものです。

 宇宙に関わり、宇宙を盛り上げていきたいと考えている一人として、「評論と言い訳だけの人」にだけはなるまい、と思っています。

(澤井秀次郎、さわい・しゅうじろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※