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ISASメールマガジン 第43号
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ISASメールマガジン 第043号 【 発行日− 05.06.28 】
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★ こんにちは、山本です。
今年の梅雨も何だか変ですね。沖縄は大雨なのに西日本は渇水。毎日あちこちのダム湖の干上がった写真がニュースになっています。さて、来週はいよいよASTRO-EIIの打上げです。西日本の皆さんには申し訳ないのですが、どうか好天に恵まれますようにと 祈っています。
今週は、宇宙輸送工学研究系の森田泰弘(もりた・やすひろ)さんです。
M-Vロケットのプロジェクトマネージャーとして忙しい中、原稿をお願いしました。
―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:TVC(ロケットの推力の向きを変える仕組み)の話
☆02:ASTRO-EII/M-V-6打上げ準備進む!
☆03:宇宙研一般公開(7/23)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
★01:TVC(ロケットの推力の向きを変える仕組み)の話
【はじめに】
みなさんは、TVCという言葉を聞いたことがありますか?これは、Thrust (推力)のVector(向き)のControl(制御)の略で、ロケットの燃焼ガスの向き(推力の向き)を変えることによってロケットの姿勢を制御するしくみのことです。ロケットの燃焼ガスは、ふだんはまっすぐうしろに噴射してロケットを宇宙に向けて加速する推進力を得ていますが、噴射の向きをすこし変えてやるとロケットを回転させる力が発生します。この力をロケットの姿勢の制御に利用するわけです。それでは、M-VロケットのTVCの設計例をひとつご紹介しましょう。
【ステップ1:推力の向きを変える方法】
推力の向きを変えるにはさまざまな方法がありますが、一番手っ取り早いのは、ノズル(円すい型をした燃焼ガスの出口)の向きを変える方法です。ノズルの向きを変えれば物理的に燃焼ガスの向きが変わるからです。このように、向きを変えられるノズルを可動ノズル(Movable Nozzle TVC:MNTVC)と呼んでいます。M-Vロケットは3段式ロケットですが、5号機からは、すべての段が可動ノズルとなっています。
【ステップ2:ノズルを動かす方法】
一口に可動ノズルといっても、ノズルを動かすにはいくつもの方式があります。代表的なものは、電動モータや油圧式アクチュエータ(油圧ピストン)を用いる方法です。ここで、M-Vロケットの第1段ステージを例に考えてみましょう。第1段ノズルは2トン近くもの重さがありますが、このような重たいノズルをてきぱき動かすのは大変です。しかも、第1段ロケットは大気の厚い層を飛行するため、空気との抵抗で大きな力を受けます。この力に負けないようにノズルを動かすために、実に40トンもの力が必要となります。このような大きな力を生み出すには油圧方式が一番です。油圧は電気の力などに比べるとはるかに大きな力を発揮することができるからです。このようなことから、M-Vロケットの第1段には大型の油圧式アクチュエータが用いられています。
【ステップ3:油圧を生み出す方法】
油圧式アクチュエータを用いる場合、大切なのは油圧源(油圧を生み出す仕組み)の設計、つまり、いかにして高い圧力をアクチュエータに与えることができるかです。M-Vロケットの第1段ステージの油圧アクチュエータにはおおよそ200気圧くらいの高圧が求められます。ロケットのように限られた空間と重さの中でこのような高い圧力をかけることは、一般的には簡単なことではありません。そこで、M-Vロケットでは、ホットガスタービンという方式に挑戦し、固体燃料を燃やして作った高温高圧の燃焼ガスでタービンを回すことによって高い油圧を生み出すことに成功しました。タービンの回転数は1分間に7万回転にも及びます。この方式を用いることにより、油圧源の重さを500Kg程度ととても小さく抑えることができました。もしも、このような大きな油圧を生み出すのに電動モータを用いたりすると数十トンもの重量が必要となってしまいます。このような工夫で、M-Vロケットには大幅な軽量化が図られているのです。
【終わりに】
さて、M-Vロケットの打上げのときに、よく見ていると、ロケットがリフトオフする直前(15秒前)にロケットの下の方から黒煙がもうもうと勢いよく噴射されるのが見えると思います。この煙こそ、タービンを回す固体燃料の燃焼ガスなのです。今度の打上げの時には、注意していてくださいね。
ところで、第2段と第3段の可動ノズルは電動モータで動かす方式をとっています。これらについては、別の機会にお話ししようと思います。
(森田泰弘、もりた・やすひろ)
ASTRO-EII/M-V-6 カウントダウンページ
⇒
http://www.isas.jaxa.jp/j/countdown/index.shtml
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※
ISASメールマガジン 第043号 【 発行日− 05.06.28 】
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★ こんにちは、山本です。
今年の梅雨も何だか変ですね。沖縄は大雨なのに西日本は渇水。毎日あちこちのダム湖の干上がった写真がニュースになっています。さて、来週はいよいよASTRO-EIIの打上げです。西日本の皆さんには申し訳ないのですが、どうか好天に恵まれますようにと 祈っています。
今週は、宇宙輸送工学研究系の森田泰弘(もりた・やすひろ)さんです。
M-Vロケットのプロジェクトマネージャーとして忙しい中、原稿をお願いしました。
―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:TVC(ロケットの推力の向きを変える仕組み)の話
☆02:ASTRO-EII/M-V-6打上げ準備進む!
☆03:宇宙研一般公開(7/23)
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★01:TVC(ロケットの推力の向きを変える仕組み)の話
【はじめに】
みなさんは、TVCという言葉を聞いたことがありますか?これは、Thrust (推力)のVector(向き)のControl(制御)の略で、ロケットの燃焼ガスの向き(推力の向き)を変えることによってロケットの姿勢を制御するしくみのことです。ロケットの燃焼ガスは、ふだんはまっすぐうしろに噴射してロケットを宇宙に向けて加速する推進力を得ていますが、噴射の向きをすこし変えてやるとロケットを回転させる力が発生します。この力をロケットの姿勢の制御に利用するわけです。それでは、M-VロケットのTVCの設計例をひとつご紹介しましょう。
【ステップ1:推力の向きを変える方法】
推力の向きを変えるにはさまざまな方法がありますが、一番手っ取り早いのは、ノズル(円すい型をした燃焼ガスの出口)の向きを変える方法です。ノズルの向きを変えれば物理的に燃焼ガスの向きが変わるからです。このように、向きを変えられるノズルを可動ノズル(Movable Nozzle TVC:MNTVC)と呼んでいます。M-Vロケットは3段式ロケットですが、5号機からは、すべての段が可動ノズルとなっています。
【ステップ2:ノズルを動かす方法】
一口に可動ノズルといっても、ノズルを動かすにはいくつもの方式があります。代表的なものは、電動モータや油圧式アクチュエータ(油圧ピストン)を用いる方法です。ここで、M-Vロケットの第1段ステージを例に考えてみましょう。第1段ノズルは2トン近くもの重さがありますが、このような重たいノズルをてきぱき動かすのは大変です。しかも、第1段ロケットは大気の厚い層を飛行するため、空気との抵抗で大きな力を受けます。この力に負けないようにノズルを動かすために、実に40トンもの力が必要となります。このような大きな力を生み出すには油圧方式が一番です。油圧は電気の力などに比べるとはるかに大きな力を発揮することができるからです。このようなことから、M-Vロケットの第1段には大型の油圧式アクチュエータが用いられています。
【ステップ3:油圧を生み出す方法】
油圧式アクチュエータを用いる場合、大切なのは油圧源(油圧を生み出す仕組み)の設計、つまり、いかにして高い圧力をアクチュエータに与えることができるかです。M-Vロケットの第1段ステージの油圧アクチュエータにはおおよそ200気圧くらいの高圧が求められます。ロケットのように限られた空間と重さの中でこのような高い圧力をかけることは、一般的には簡単なことではありません。そこで、M-Vロケットでは、ホットガスタービンという方式に挑戦し、固体燃料を燃やして作った高温高圧の燃焼ガスでタービンを回すことによって高い油圧を生み出すことに成功しました。タービンの回転数は1分間に7万回転にも及びます。この方式を用いることにより、油圧源の重さを500Kg程度ととても小さく抑えることができました。もしも、このような大きな油圧を生み出すのに電動モータを用いたりすると数十トンもの重量が必要となってしまいます。このような工夫で、M-Vロケットには大幅な軽量化が図られているのです。
【終わりに】
さて、M-Vロケットの打上げのときに、よく見ていると、ロケットがリフトオフする直前(15秒前)にロケットの下の方から黒煙がもうもうと勢いよく噴射されるのが見えると思います。この煙こそ、タービンを回す固体燃料の燃焼ガスなのです。今度の打上げの時には、注意していてくださいね。
ところで、第2段と第3段の可動ノズルは電動モータで動かす方式をとっています。これらについては、別の機会にお話ししようと思います。
(森田泰弘、もりた・やすひろ)
ASTRO-EII/M-V-6 カウントダウンページ
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※