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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第37号

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ISASメールマガジン   第037号        【 発行日− 05.05.17】
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★ こんにちは、山本です。
 『鉄腕DASH』というTV番組をご存知ですか? コーナーのひとつにソーラーカーで日本一周があります。前回放送分では薩摩半島を走っていました。次回は内之浦のある大隅半島でしょうか。でも、地元ドライバーがアシストしている場合だと、軽〜くスルーされてしまうことがあります。そんな時は今週の記事を参考に楽しみましょう。
 今週は、宇宙構造・材料工学研究系の峯杉賢治(みねすぎ・けんじ)さんです。

―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:そうだ、内之浦へ行こう!
☆02:新コラム掲載『宇宙・夢・人』『内惑星探訪』
☆03:「第4回 君が作る宇宙ミッション」参加者募集!
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★01:そうだ、内之浦へ行こう!

 ロケット打上基地と言うと、大抵の人が種子島を思い浮かべるようです。でも、日本で最初の人工衛星を打ち上げたロケット基地は内之浦にあります。そして、今も、この内之浦からM-Vという名前のロケットで科学衛星を打上げています。そんな内之浦に皆さん行ってみませんか?

 羽田空港を飛び立った飛行機は、伊豆半島を通過し、一路西へ。紀伊半島潮岬から四国室戸岬、足摺岬上空を通過し、宮崎辺りで九州に入ります。丁度、眼下に鬼の洗濯岩に囲まれた青島が見えます。少し内陸に入ったところで南下し、志布志湾が見えたところで再び西へと進路を変えます。そして、錦江湾に入る手前で北に進路を変えて、鹿児島空港へのアプローチに入ります。左手には桜島が雄大にそびえ立ち、天気がよければ、遠くに開聞岳の美しい稜線を拝むことができます。眼下には内之浦へと向かうバス道が見え、この辺でおろしてくれればなあと毎回思います。

 鹿児島空港を降り立つと、冬は暖かいと感じ、夏は都会のクーラーの熱交換機で暖められたベタっとした暑さではなく、少し爽快感のある暑さが肌から飛び込んできます。さて、大半の人は飛行機でこんな遠くまできたのだから、目的地まであと少しと思われるでしょうが、実はまだ道半ばなのです。次は、空港から高速バスに乗り、大隅半島の中核都市鹿屋へと向かいます。バスは途中から錦江湾を離れ、大隅半島の内陸をひた走り、約1時間40分で鹿屋に着きます。

 問題はここからです。内之浦は地図でご確認すればお分かりと思いますが、大隅半島の東部の海岸線に位置しています。鹿屋から内之浦まではバスが出ていますが、本数がたいへん少ないのです。私たちがロケット打上げで内之浦へ行くときは、ここからタクシーがその足となります。数年前までは、鹿屋から一路東に向かい、太平洋にぶつかってからは、海岸線沿いを南下し、内之浦に入るという道のりでした。この海岸沿いの道は高いところを走るつづら折りの道で、眼下には太平洋が広がる気持ちのいい道です。数多くのカーブを曲がった後、突然視界が開けて、夕方なら内之浦の灯りが飛び込んできます。鹿屋から約1時間20分、この光景で着いたなという気分にやっとなったものです。今は内之浦の背後にそびえる国見山にトンネルができて、鹿屋から海岸線に出ることなしに、内之浦に入ることができるようになりました。そのおかげで時間短縮になったことは喜ばしいのですが、郷愁に似た感覚を誘うあの光景が見られなくなったことは少々寂しく感じます。この新しい国見トンネルの入り口は少々わかりにくいので、車でいらっしゃる方はご注意ください。

 内之浦の町(正確には内之浦町の内之浦地区)は内之浦湾に面しており、白砂青松の海岸線が広がる美しいところです。「宇宙へのゲートウェイ」という町の謳い文句に違わず、町のあちこちにロケットに関係するものを見つけることができます。町の産業は農林水産業が中心で、特に「キヌサヤエンドウ」は日本一と高い評価を得ている特産品だそうです。それだけでなく、魚も当然おいしいし、私的には、タンカンは秀逸であると思っています。タンカンは柑橘類で、その豊潤な香りとほとばしる瑞々しい味わいは私を虜にしてしまいました。また、海岸の岩場では大物の磯釣りを楽しむことができ、太公望にとっては天国のような場所です。兎に角、仕事の後の芋焼酎やビールと共に味わうご飯はおいしく、体重のコントロールは不可能になってしまいます。

 内之浦の町からロケット基地までは、車で約10分の道のりです。つづら折りの山道は現在より真っ直ぐな道に工事中で、途中に架かる橋の欄干に何かが乗っていますが、それは現地でのお楽しみと言うことで。この道を登り切ったところに、ロケット基地の入り口があります。ロケット基地の現在の名前は、内之浦宇宙空間観測所(Uchinoura Space Center:USC)と言います。かつては、鹿児島宇宙空間観測所(Kagosima Space Center)、略してKSCと呼ばれていました。かの米国のケネディ・スペース・センター(KSC)と同じ略称でしたが、こちらが元祖です。あちらが本家かもしれませんが・・・。

 このUSCは、ロケット打上基地としては世界的にも珍しく、海に面した小高い丘、いや、山腹にいろいろな施設が散在しています。入り口からは山を登る道と橋を渡って降りる道があります。登る道を行くと、管理棟を横を通って、巨大な34mアンテナにたどり着きます。周りには、ロケットの飛翔を監視するコントロールセンターとロケットからの各種データを受け取るテレメータセンターがあります。ここはUSC全体を見渡すことができる絶景ポイントで、すぐ下には小型の観測ロケットを打ち上げるKS台地が、その更に下にはM-V型ロケットを打ち上げるMu台地の整備塔が見えます。左手山頂には20mアンテナが、左前方には10mアンテナがあります。右手遠くには宮原地区にあるロケット追尾用の精測レーダーを視界にとらえることができます。そして、眼前には太平洋が雄大に広がっています。

 入り口から降りる道には2つの橋が架かっています。左手の古い橋は、宇宙研の科学衛星打上用のMuシリーズロケットにちなんでMu(ミュー)橋と呼ばれています。しかし、この橋ではM-V型ロケット各部が通過する際の重量に耐えられないことから、右手の新しい橋が架けられました。名前は五運橋といいます。運気学の天干五運がその由来というお話もありますが、M-V(エムゴ)が運ばれる、つまり、五が運ばれる橋で五運橋とも言われています。この橋を通って道を下ると、Mu台地に着きます。このMu台地にはロケット各部の整備・組立を行うM組立室、ロケットの最終組立から発射までの機能を有する整備塔、それから、ロケット発射直前までの管制を行う管制室があります。そして、ここにはM-V型ロケットの実物大の模型もあります。実は模型と言っても大部分は実物と同じ設計・材料で作られています。これらはロケット開発の際に試験用に製作されたもので、捨てるにはもったいないし、持って帰るにはお金がかかるので、みんなで頭をひねった結果、模型として再利用することを思いついた次第です。

 私は、ロケットの構造・機構担当者として、且つ、発射装置を担当するチームの一員として、ロケット組立作業中はこのMu台地にいます。実際にロケットが組みあがっていく様を目の当たりにすることは、とてもうれしいことですが、同時にどこかに不具合が隠れていないか、自分の子供の具合を確かめるが如く、注意深く見ていきます。そして、打上当日は管制室に入って、ロケット発射装置周りの地上の安全を確かめる役目を担っています。ロケット第一段点火!轟音を残して天に昇っていくロケット!私はその様子を映し出しているモニタを奥歯を噛みしめながら、食い入るように見つめています。次第に遠ざかり、モニタ上では点になるロケット。ヘッドフォンからは、時々刻々とロケットの状況が流れてきます。衛星軌道投入成功!管制室から、そして、ヘッドフォンから聞こえてくる拍手。

 さて、皆さん。USCの入り口から上へと登る道は、ロケット打上当日を除けば、日中ならほぼいつでも見学可能です。下のMu台地へと行く道は、M-V型ロケットがなければ見学可能です。そして、M-V型ロケットの打上げは、安全のための距離を確保された一般見学席で見ることができます。ただし、この見学席は内之浦の町からUSC入り口を通りすぎた先にあります。USC周辺のその道路はロケット打上2時間前ぐらいから通行止めになる上、見学席周辺は駐車する車で渋滞するため、お早めの移動をお勧めします。そこへ行かずとも、内之浦の町中から山の稜線を飛び出して昇っていくロケットを見るのも素敵かもしれません。ロケットが打ち上がるとMu台地への見学も可能になります。この他にも、小型の観測ロケットの打上げがあり、これはもっと近い、入り口あたりで見ることができます。でも、打上げはロケットや人工衛星の調子、それから、天候の様子によって、延期されることは多々ありますから、ご承知おきください。それから、M-V型ロケットの打上げの場合は、内之浦の宿泊施設はロケットや衛星の関係者でいっぱいになりますので、近場に泊まりたい方は鹿屋あたりで予約されてはいかがでしょうか。

 内之浦は近隣各地から自家用車やレンタカーで手軽に行くことができ、ロケット基地やロケットの打上げを見学することができます。皆さん、内之浦の方々をはじめとして、いろいろな方々に支えられて、天空を目がけて昇っていくロケットをご覧になりにいらっしゃいませんか。

 そうだ!内之浦へ行こう!

(峯杉賢治、みねすぎ・けんじ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※