宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2005年 > 第31号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第31号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第031号        【 発行日− 05.04.05】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★ こんにちは、山本です。
 新年度が始まりました。先週紹介したISAS生協のお花見は、桜が咲かないので今週末の9日に延期されました。きっと満開の桜の下で花見の宴を満喫できるのでは……
 今週は、ISASの本部長(というか、所長の方が分かりやすいですよね)の鶴田浩一郎(つるだ・こういちろう)さんです。

―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:「地中生命」に関する本を読んで考えたこと
☆02:世界最大の宇宙イベント「Yuri's night Japan 2005」
☆03:宇宙科学講演と映画の会のお知らせ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

★01:「地中生命」に関する本を読んで考えたこと

 数ヶ月前にデウィツド・W・ウォルフという人が書いた「地中生命の驚異」(長野敬、赤松真紀訳、青土社)という小冊子を読んだ。生物学には全くの素人の私にも楽に読める書きぶりであるが、予備知識の殆どない私にとって、書いてある内容は相当にショッキングなものであった。第一に驚いたのは地中に生息する生物の方が地上に住む生物より量的にも多いのではないかということ。地中に生息する生物としてはもぐら、みみず、蟻、いもむしといったところが私の知識の限界であって、地下数千メートルにうごめく微生物の世界は想像の限界を超えていた。第二は本の中に紹介されている分子生物学を使った系統樹である。系統樹の大部分は細菌や粘菌といった微生物で占められており、我々が普通の生物の代表と思っている動物や植物はほんの小さな2本の小枝で表現されているに過ぎない。我々、地上の動植物は微生物に主役の座を奪われてしまった感じである。さらに、系統樹の根っこの部分が好熱性の微生物群によって占めていることも、遠い先祖は熱いところが好きだったらしいことを示唆していて興味深い。

 生命の起源を探ること、地球以外に生命か生命の痕跡を探ることは宇宙科学あるいは宇宙探査の大きな課題である。先の系統樹に従うと、地球上の生命が始まった場所はぬるま湯的な富栄養の池ではなく、地下深く高温の場所か深海の熱水噴出口付近と言う考えが優勢だということである。このような条件を満たしそうな場所は地球以外の惑星にも存在する。火星の地下は候補の一つで適当な深さに液状の水が存在する可能性は高い。木星の衛星エウロパは潮汐運動で加熱されており表面の氷の下に液体の水をたたえていると考えられる。最近、米国を中心に火星に人を送ろうという機運が高まって来ている。実際に火星に人を送る前に様々な科学探査を実施する計画であるが、火星から土壌のサンプルを地球に持ち帰り様々な分析を行うことは重要なステップであろう。生命の探査という視点以外でも火星の土壌の中に未知の生命体が居る可能性があれば、人を送る前に事前の綿密な分析を必要とすることは言をまたない。生命探査という観点からは、地球の地中の生命についての知見を考慮して、かって、ヴァイキング探査機が行ったような表面土壌の分析ではなく、ボーリングによって採取した地下の土壌を持ち帰ることが必要だろう。このようにして持ち帰った火星の土壌に微生物が含まれているか、その痕跡が見つかれば生命の起源についての理解に大きな貢献となる。地球の古細菌の研究から我々の先祖を割り出したように、火星の微生物から隣の先祖が割り出せたら何が明らかになるだろうか、さらに、木星の衛星の海から、木星の魚が見つかったりしたら生命の発祥問題はどのような展開を示すことになるのだろう。考えただけでもわくわくする話がつながりそうである。

(鶴田浩一郎、つるだ・こういちろう)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※