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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第29号

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ISASメールマガジン   第029号        【 発行日− 05.03.22】
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★ こんにちは、山本です。
 3月も半ばを過ぎ、ロッジの前のコブシの花が咲きはじめました。管理棟前 の桜が咲くのももうすぐです。
 今週は、宇宙科学共通基礎研究系の今村剛(いまむら・たけし)さんです。

―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:電波で太陽系を一刀両断
☆02:M-V型ロケット6号機の組み立て進む
☆03:宇宙科学講演と映画の会のお知らせ
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★01:電波で太陽系を一刀両断

 2000年12月から2001年1月にかけて私は研究を手伝ってくれる大学院生の皆さんと一緒に、雪深い長野県の山中にある臼田宇宙空間観測所の大きなパラボラアンテナで、火星探査機「のぞみ」からの電波に耳を傾けていました。宇宙を旅する探査機は、地球にあるアンテナまで一直線に伸びる電波の糸、すなわち無線による通信で結ばれています。私たちは探査機に向かって電波で指令を送り、探査機は地球にいる私たちに向かって電波で返事をします。「のぞみ」はこのとき火星への旅の途上にあり、地球から見て太陽の反対側を飛行中でした。探査機からはるばる3億キロメートルを隔てて地球に届く電波は、太陽のすぐ近くをかすめてきていました。

 太陽から吹き出す電気を帯びた超音速の風、太陽風の影響で、電波の強さや周波数が大きく揺らいでいるのがわかります。私たちが決して近づくことのできない、灼熱の太陽の近くの宇宙空間の激しい息づかいです。「のぞみ」から送り出されたあと厳しい環境をくぐり抜けて地球にたどり着いた電波に、頼もしさや愛しさに近いものを感じたのは、妙な感慨です。このとき得られたデータを解析して、太陽風のエネルギー源について新たな発見がありました。これと似た観測はハレー彗星を調べた探査機「すいせい」の電波を使って1987年にも行われています。

 このように探査機と地球を結ぶ電波を使って、その途中にある天体の性質を調べる方法を、電波オカルテーション、あるいは電波掩蔽(えんぺい)と呼びます。あらゆる探査機はもともと電波を使って地球と通信しているので、電波オカルテーションは比較的手軽にできる太陽系観測として、人類が宇宙に進出した初期からしばしば試みられてきました。上に紹介したのは太陽観測の例ですが、惑星探査においても目覚ましい活躍があります。

 探査機が火星や金星などの惑星の周りを回る衛星になったとしましょう。すると探査機は、地球から見て惑星の後ろに隠れたり出てきたりします。この時探査機と地球のアンテナを結ぶ電波の糸は、探査機の動きとともに、惑星を包む大気圏を上から下へ「なで斬り」にします。糸のこぎり、焼き物用の粘土を切る糸、あるいはデンタルフロスといった例えが適当かわかりませんが・・。電波は惑星の大気をかすめるように通り抜けるとき微妙に曲がりますが(屈折)、その曲がり方は電波が通り抜ける惑星の大気中での高度によって変化します。その様子を調べると惑星大気の温度分布がわかるのです。

 たとえば火星の気温が砂あらしのとき急激に上がることや、金星や木星の雲の下では深いところほど気温が高いことなどが、この方法で明らかになりました。アメリカのボイジャー探査機が1989年に海王星の近くを通り過ぎたときには、宇宙科学研究本部はNASAと協力して、ボイジャーと臼田宇宙空間観測所を電波で結んで海王星を観測しました。これは見事に成功して、海王星の雲の下でも深いところほど高温であることなどがわかりました。この他にも電波オカルテーションは、惑星をとりまく電気を帯びた大気(電離層)の厚みや、土星の輪を構成する氷のかけらの大きさなどを明らかにしてきています。

 私たちは今、2006年に打ち上げられる月探査衛星「セレーネ」による電波オカルテーションで月の地表近くにある電離層を調べる計画を立てています。その次には金星探査「プラネットC」で、やはり電波オカルテーションで金星 の気象を調べる計画があります。古くて新しい電波観測で太陽系を斬る旅は続きます。

新しいウィンドウが開きます http://www.stp.isas.jaxa.jp/venus/rs.htm

(今村剛、いまむら・たけし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※