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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第24号

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ISASメールマガジン   第024号        【 発行日− 05.02.15】
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★ こんにちは、山本です。
 風邪からは復活しましたが3連休でちょっとお休みモードか……。イケナイイケナイ、気合いを入れてお仕事モードに戻さないと。
 先週から2巡目に入ってます。宇宙プラズマ研究系の阿部琢美(あべ・たくみ)さんです。

―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:地球の双子星を探査する
☆02:「宇宙学校・倉敷」盛況裡に終了
☆03:「星の王子さま」への旅−小惑星が教えてくれること−
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★01:地球の双子星を探査する

地球の双子星と言われるのはどの星でしょうか?
月ではありませんよ。双子だから惑星ですよね。そう金星です。宵の明星、明けの明星で有名な金星が地球の双子星と言われています。大きさや質量が似ている、太陽からの距離も地球に近い、そんな事が理由とされています。

ところが、実際の金星表面は地球とは大違い! 地球の90倍(約90気圧)もの厚い大気が450℃というとんでもない高温で存在しているのです。こんな高温だから海なんて無いし、上層の大気まで含めても水分なんてほとんど無し。しかも上空には濃硫酸の雲。我々地球人から見たら地獄みたいな世界で、これじゃ将来宇宙旅行が出来るようになっても金星旅行に行きたいなんて人は出てきそうにないですね。

JAXA宇宙科学研究本部では金星に向けて周回探査機を打ち上げるPLANET-C計画を進めています。何故、こんな惑星に行こうとするのでしょうか?
第1には金星大気に関する様々な面白い謎を解き明かそうとするため。例えば金星の大気は西向きにすごい速度で回っていて(超回転と呼ばれている)、一番速いところでは自転の60倍もの猛スピードで、しかも全金星規模で循環しています。太陽系にはこんな惑星は他に存在しません。大気の組成も地球とは随分異なって、ほとんどが二酸化炭素です。また、金星には水分がほとんど無いので氷もありませんが、雷が起こっているという説があります。本当なら、地球と異なる世界でどんな理屈に基づいて雷が起こるのでしょうか?

金星表面は450℃の高温の世界ですが、これは二酸化炭素が原因の温室効果によって生じました。現在、地球上で騒がれている温室効果の成れの果てが金星の灼熱地獄かもしれません。もしそうであれば、金星大気を研究することが地球の未来を考える上で大変参考になります。地球と金星は惑星が出来た当初は、比較的環境が似ていたと考えられています。だとすれば、現在のような極度に異なる環境に至ったのは何が原因だったのでしょうか? 地球は生命が住める有難い環境になったのに、金星がそうならなかったのは何故でしょうか?

PLANET-C計画では観測波長が異なる(近赤外2台、中間赤外・紫外各1台、可視光1台)計5台のカメラを搭載した探査機を金星周回軌道に投入して、金星を取り巻く大気を多角的に調べます。大気の発光や散乱は波長に応じて異なる高度で生じるので、多波長で観測を行うことは立体的な現象の理解に役立つのです。探査機は約30時間で金星を1周し、高い高度から金星全体を捉えるように2次元的に連続撮像を行い、雲の動きを追跡します。簡単に言うと気象衛星の「ひまわり」が地球上で行っていた雲の撮影を、金星上空で行うというものです。雲の移動を捉えることで大気の運動を引き起こす角運動量輸送に関する情報を得て、超回転など金星固有の大気力学現象に関する謎を解明します。

私たちが他の惑星に向けた探査を試みようとするのは、未知の世界に足を踏み入れたい、その世界(つまり地球とは異なる環境)で起きている現象を解き明かし我々の有する学問をより普遍的なものにしたい、といった探究心や知的好奇心に因るものが大きいと思います。また、地球、金星、火星や小惑星といった様々な星を調べていくことで太陽系形成初期の頃の状況を推測することや地球の成り立ち、我々自身の起源に遡ることが可能となります。さらに、多種多様な宇宙空間の環境の中で地球上に生命が誕生したことの尊さを改めて認識することにもつながると思います。

宵の明星、明けの明星も地球の双子星と思って眺めると違って見えませんか?

PLANET-C金星探査計画の概要は
新しいウィンドウが開きます http://www.stp.isas.jaxa.jp/venus/

(阿部琢美、あべ・たくみ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※