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IVA

電離圏イオンドリフト速度測定器
(Ion Velocity Analyzer)

1.測定器開発の背景と目的
 電離圏に特徴的な現象である中規模移動性電離圏擾乱(MS-TID)、赤道スプレッドF等の解明には中性大気とプラズマの相互作用の理解が重要な鍵になる。この相互作用は粒子間衝突を介して相互に影響を及ぼしているが、理論的な予測に対し観測的な検証が不十分である。両者間の運動量輸送は赤道域においてはスーパーローテーションを起こす駆動力にもなり全球的な熱圏大気の循環にも影響を与え、局所的な物理過程の議論のみならず、大規模スケールの大気の運動を議論する上でも大事な鍵となる.
 電離圏のような弱電離プラズマ中での両者の相互作用は地上実験での測定が困難で、宇宙空間で観測する以外に方法は無い。イオンドリフト測定器を開発し、観測ロケットや小型衛星に中性大気観測の計測器とともに搭載しデータを取得することで、両者の相互作用の直接同時観測を実現し、下部電離圏領域の現象についての定量的議論に必要な数値データを提供することができる。
 このような背景の下、飛翔体搭載用の電離圏イオンドリフト速度測定器を目指した開発を2019年度に開始した。3年間の開発期間を通して、試作した測定器評価モデルの性能を確認し、電離圏に存在する低エネルギーの熱的イオンを測定する性能を有することを実証した。現在、観測ロケットS-310-46号機への搭載を念頭に、イオンドリフト速度測定器の開発を継続している。

2.測定器の特徴と開発方針
 ここで開発する電離圏イオン観測のためのドリフト速度測定器は微小な電流を比較的高速でサンプリングし出力するため、アンプを良く吟味し目的に適するものを選定する必要がある。このため、アンプの候補を選定し、簡単な回路を用いて評価を実施し、その後このアンプを用いた電気回路部の製作を実施した。今後は電気回路部と別途製作するセンサ部とを組み合わせて測定器を完成させる。
 観測ロケットは電離圏内を速度約1~2 km毎秒で飛行するが、これは電流圏中の支配的な熱的イオンの速度を上回る。このため、観測ロケット上ではイオンはバルク的な運動速度をもった粒子集団として観測されるはずである。測定器の完成に向けて、真空チェンバー内に生成したプラズマ環境中での測定結果からイオン温度、イオン密度推定を行う妥当性について実験的な検証を行っている。これらの結果を用いて、センサ内部のグリッド電極の配置や印加電圧、寸法、電気回路部の変更や最適化のための修正が行われる。

3.測定器センサ部の構成と構造
 電離圏イオン測定器のセンサ部はRPA(Retarding Potential Analyzer)部とコレクタ電極部から構成される。RPA部では内部に配置したメッシュグリッドに電圧を印加することでイオンのエネルギー分析を行う。電極部では2次元的に配置した多数の単電極で得られる電流値が同軸ケーブルを介してプリアンプに送られ、電流分布からイオンの到来方向を検出する。
 図1に測定器のRPA部と電極部から構成されるセンサ部の外観を示す。コレクタ電極は計36枚の単電極で構成され、直径117.2mmの円内に貼り付けられる。円周方向に一周12枚の電極が軸方向に3列設置されており、各列の電極の表面積は異なる。電極1個の測定電流の期待値は最大10 nAである。RPA部には計6枚のメッシュグリッドが取り付けられるが、各メッシュの役割は異なる。前面から2枚目, 3枚目に印加するリタ―ディング電圧を制御することによって、入射してくるイオンのエネルギー分析を行う。


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図1. イオン測定器センサ部の外観


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図2. イオン測定器プリアンプ部の外観


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図3. イオン測定器電気回路部の外観



IVA班

 本測定器の開発はJAXA宇宙科学研究所、京都大学大学院理学研究科・工学研究科および同大学生存圏研究所に所属する研究者および大学院生により行われている。開発資金に関しては初期段階ではJSPS科研費JP18H01274(2018~2020年度)、フライトモデルの製作に向けては文部科学省宇宙航空科学技術推進委託費JPJ000959(2021~2023年度)の助成を受けた。