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  • 観測ロケット実験

FLP

高速ラングミューアプローブ
(Fast Langmuir Probe)

1.測定器の目的
 FLP(Fast Langmuir Probe)は電離圏プラズマの基本的なパラメータである熱的電子の温度と密度を測定する事を目的として開発された。観測ロケットに搭載され円筒プローブに三角波電圧を印加した際に得られる電流-電圧特性から電子温度と密度を推定する仕組みになっている。電離圏中で電子密度が約10^4 ~ 10^6 /cm^3の領域において測定が可能となるよう電流利得は調整される。
 S-310-46号機実験の目的は電離圏下部に発生するスポラディックE層の直接観測にあるが、この現象の発生には中性粒子とプラズマの相互作用が重要な役割を果たしている。高速ラングミューアプローブはロケット飛翔中に軌道上の局所的な電子温度と電子密度の観測を実行し、プラズマの構成要素である電離圏熱的電子の特性を明らかにする。この観測データはロケット搭載の他の観測機器により同時に取得される電離圏中の様々なパラメータとの比較を通じて、電離圏中の現象の解明に用いられる。

2.測定器の概要
 電圧-電流特性を取得するために直径3mmのステンレス製円筒プローブを用いる。このプローブは予め真空チェンバー内で排気しながら長時間熱することにより大気中の水分や油分等による汚染を除去した後、ガラス管で真空封じしたものである。プローブはこの状態でロケットに搭載され、飛翔中のロケットノーズコーン開頭後にガラス管が割られ、機軸と直角方向に展開された後、スピンによる遠心力でプローブの外側に放出される。こうして、プローブは汚染されていない状態で測定を開始する。
 S-310-46号機実験では搭載した円筒プローブに振幅3V、周期100msの三角波電圧を印加し、1秒間に20セットの電圧-電流特性を取得する高速サンプリングを行う。ロケットに搭載したプローブによる熱的電子の測定は飛翔する物体により生じるウエークの存在により大きな影響を受けるが、FLPの場合は機軸と垂直方向に伸展したプローブがロケットのスピンとともに周期的にウエーク外で測定を行うため、正確な温度と密度を算出できる。

3.測定器の主な仕様
 本測定器は電離圏プラズマ中でのプローブの電流電圧特性から電子温度と密度を求める、というラングミューアプローブの基本原理に基づいている。
 プローブにはロケット電位に対して振幅3.0Vの三角波電圧を印加する。通常、電離圏において観測ロケットは負に帯電するが、経験的には振幅3.0Vで電子温度と密度の推定に必要な電圧範囲をカバーできる。プローブに流れ込む電子電流、イオン電流は電流アンプで増幅された後に計測され、テレメータへ送られる。高度とともに変化する電子密度に対応できるようHighとLowの2つの異なる利得をもつアンプを使用する。電流の利得は電離圏D領域、F領域の電子密度変化をカバーするように調整される。
 イオン電流を含む電圧、電流特性をみるため、2つのアンプは+0.5Vのオフセット電圧をもち、これより低い値はイオン電流を、高い値は電子電流の大きさを表すようになっている。較正は30秒に1回、抵抗にプローブをつなぎ替えておこなう。


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図1. FLPセンサ部の外観


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図2. FLPプリアンプ部の外観


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図3. FLP電気回路部の外観-3



FLP班

 本測定器の開発はJAXA宇宙科学研究所、京都大学大学院理学研究科に所属する研究者および大学院生により行われている。開発資金に関してはJSPS科研費JP23H01235(2023~2025年度)の助成を受けている。測定器開発にあたってはJAXA宇宙科学研究所のスペースチェンバー共同利用設備を使用している。