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COLUMN

観測ロケット研修で学んだマネジメント

東京大学大学院 電気系工学専攻 修士2年
都筑 大樹

 宇宙科学人材育成プログラムにおいて、観測ロケットS-520-34号機の嚙み合わせ試験・フライトオペレーションに参加させていただいた、東京大学工学系研究科の都筑大樹と申します。私は2022年8月に打ち上げられたS-520-32号機にPI(VAS班)として参加しましたが、当時は学部生だったということもあり、プロジェクト全体を考える余裕を持てませんでした。今回の研修はプロジェクトやシステムを俯瞰してより上流の工程で求められる考えを獲得したいというモチベーションで参加し、プログラムという更に高い視座から観測ロケット実験について考えることも出来ました。本稿では、34号機でのマネジメントに加えて、複数の号機からなるプログラムという観点でのマネジメントについて、学んだことを紹介します。

 まず、S-520-34号機のプロジェクトにおけるマネジメントにおいて、特に印象的だった出来事として、打ち上げ延期を余儀なくされた地震の影響が挙げられます。打ち上げ準備が進む中で発生した大きな地震により、計画を一時停止し、打ち上げの日程を延期するという決断が求められました。この際に、私が学んだのは、プロジェクトの中で「決めるべき人」が責任を持って速やかに決断を行うことの重要性です。複数の関係者が存在するプロジェクトにおいては、誰が何を決めるべきかが明確でないと、意思決定が滞り、プロジェクト全体の遅れやさらなるリスクを招くことになります。この経験を通じて、マネジメントにおける責任の所在を明確にし、適切なタイミングで意思決定を行うことの重要性を深く理解しました。

 さらに、今回の研修では、観測ロケットの実験プログラム全体を見渡す視点からマネジメントについても考える機会がありました。その一例として、RATSのGPS試験が挙げられます。2022年に参加したS-520-32号機では、機器が発する電磁波の影響により、電離圏観測を行う機器がGPSの電波を受信できないという問題が打ち上げ直前のテストで発覚しました。この問題は、1日という短い期間では適切な対処を行うことはできないという判断となり、最終的に打ち上げが約1カ月延期されるという結果となりました。この経験を踏まえて、今回の34号機では相模原で実施される嚙み合わせ試験において、GPSの電波を正しく受信できるかどうかをチェックする手順が組み込まれていました。このように、過去の失敗や経験を共有し、次のプロジェクトでの改善に繋げることは、観測ロケット実験プログラム全体の品質向上にとって極めて重要であると思います。その意義を実感できたことは自身の今後に活きる貴重な経験となりました。

 最後になりますが、研修を通じてさまざまな知識や経験を教授していただき、質問に真摯に対応していただいた関係者の皆様に、この場をお借りして深く感謝申し上げます。今回の経験を自身の研究などを通じてJAXAに還元していきたいです。今後の観測ロケット実験グループの更なる発展をお祈りいたします。

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