COLUMN
観測ロケットプロジェクトにおける研究・開発同時並行の難しさ
名古屋大学 博士後期課程2年
佐藤 寛
デトネーションエンジンシステム(DES2)の宇宙飛行実証を目的とした、観測ロケットS-520-34号機による打ち上げ実験のDES2班の一員で、液体推進剤を用いた回転デトネーションエンジン(RDE)の開発を担当した、名古屋大学の佐藤寛と申します。約3年間、実験計画の立ち上げから最後のフライトオペまで携わらせて頂いた今回の実験を通じ、私が経験し感じたことをお伝えできればと思います。
今回の観測ロケットプロジェクトは、研究と開発が同時並行で行われるプロジェクトでした。燃料にエタノール、酸化剤に亜酸化窒素と常温液体推進剤を使用しましたが、亜酸化窒素は蒸気圧が高く、当初噴霧特性も分かっていませんでした。また二液式RDEの作動条件は世界的に見ても知見が少ない中、キックオフから約2年でフライト品を完成させなければならず、かなり厳しいスケジュールでした。二液式RDE作動に初めて成功したのが2022年7月でした。このRDE作動成功をもって長秒試験にも耐え得るフライト品を製作し、同年12月に燃焼試験をするとRDE作動しなくなり、振り出しに戻ってしまいました。その後、計3回の改良、燃焼試験を経て確度の高い作動条件を同定でき、フライト試験でもRDE作動を確認することができました。したがって、フライトに向けた優先順位を適切に決め、1つ1つ迅速に課題を解決する能力が必要不可欠と感じました。
また、実際のフライト試験時の環境は地上試験とは同一でないことも肝に銘じる必要があることを痛感しました。液体推進剤を使用しているため、フライト試験でのスピン環境、作動前の無重力環境は非常に重要な項目でした。当初、推進剤は点火の1秒前に供給開始するように設定していました。しかし、パワーフライト後の逆加速度、その後の無重力環境下ではタンク内に加圧ガスがあると、供給開始時は液体推進剤を取り出せないので、セトリングが必要となります。そのため、主弁開を早めるシーケンスに変更しましたが、シーケンス変更のRDE作動への影響を十分に検証できないままフライト試験に臨みました。上記厳しいスケジュールでは、キックオフ時点で様々な可能性を考慮して1つずつ潰し、また不測の事態が起こってもすぐに対処できる環境を整えなければいけないことを痛感しました。
一研究室では絶対に経験することができない本プロジェクトに携わることができ、感謝しております。本当にありがとうございました。JAXA宇宙科学研究所、室蘭工業大学、NETS、東京大学、崇城大学、その他数多くの関係機関の皆様の支えなくして本実験を遂行することは不可能でした。今回、本実験を支えていただいた関係者の方々にこの場をお借りして深く感謝するとともに、今後の観測ロケット実験のさらなる発展を心より願っております。
最後になりましたが、エンジン開発に関しても、同時並行で、推進剤供給系、アビオニクスも設計し、全体を組み上げないといけないところ、エンジン開発に集中できる環境を作ってくださった名古屋大の教員、学生の皆さんにこの場を借りて感謝申し上げます。