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COLUMN

当事者としての覚悟と自信

名古屋大学 准教授 松岡健

 S-520-31号機ミッションにてデトネーションエンジンシステム(DES)に搭載された回転/パルスデトネーションエンジンおよび高圧ガス供給系を担当した、名古屋大学の松岡です。今回は、本ミッションを終えての個人的なLessons Learned(LL)を2つ述べさせていただきます

 当初、DESへの高圧ガス充填は、規定量のガスが予め充填されたタンクをDESに取り付ける計画でした。これは、機体のダイナミックバランス(DB)を正確に管理するためです。しかしながら、フライト前の振動衝撃試験・ダイナミックバランス試験での模擬ガス充填やタンク接続部の気密性などの観点から、地上支援設備(高圧ガスGSE)からDESにガスを充填する運用に変更されました。つまり、ガス充填にてDB許容値1000 gcmをクリアする必要が出てきました(例えば、燃料であるメタンガスの充填規定値1000 gに対して±5 g程度の精度)。この課題に対して、高圧ガスGSEのブルドン管の高精度化、1 g精度でのDES質量計測でクリアしましたが、高圧ガス関係の届出や追加装置、運用の複雑化など、多大なリソースを割くことになってしまいました。

 もう一つは、可燃性ガスであるメタンガスの漏洩監視です。射場でDESにメタンガスを充填したあと、ランチャーに取り付けられて発射するまで漏れていないか監視する必要がありました。観測ロケットミッションとしても初めての試みであり、当初、想定されたハザードに対して十分すぎる監視体制(24時間常時監視)を計画してしまいました。結果的には、非常時の自動メール送信と遠隔定期監視を導入し、一週間の打ち上げ延期にも耐えうる運用で乗り切りました。しかしながら、限られたリソースに対する提案方法の妥当性検討、組織間での監視体制のすり合わせなど事前準備が十分であったとは言い切れません。

 上記2つのLLは、初期検討段階から課題として識別されていたにも関わらず、結果として多くのリソース(コスト、時間、労力)を割くことになってしまいました。また、このLLの背後にはプロジェクトの大きな遅延や失敗が潜んでいると考えています。この経験から、検討の初期段階から当事者として覚悟を持って取り組み、時には組織間で強く・深く連携することの重要性を学びました。この経験が自信となって次につながるのだと感じています。

 最後になりますが、本プロジェクトは私自身にとっても極めて重要な経験となりました。本ミッションを支えていただいた多くの関係者にこの場をお借りして深く感謝するとともに、今後の観測ロケット実験のさらなる発展を心より願っております。

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