COLUMN
冗長性の高い設計のなかでの挑戦的な実証
東海大学 修士2年 池谷広大
S-520-33号機のミッションであるPIデータコレクタ(PDC)の開発、実証実験に関わらせていただきました、東海大学の池谷広大と申します。 PDCの搭載機器の一つである全方位/進展カメラ(PDC-CAM)の開発に携わり、主に動画撮影の制御を担当しました。
PDC-CAMは動画を撮影し、そのデータを他のPIであるエアロシェル展開型データ回収システム(RATS-L)へ保存します。大容量のデータを得られるということで、これまでにない、打ち上げ前から、ロケットモータの燃焼中、ノーズコーンの分離、PDCカメラ自身の伸展まで、すべてのイベントを360°動画として撮影する挑戦的な課題を設定しました。動画の保存形式や撮影アルゴリズムを工夫することで、振動や衝撃による撮影中断を最小限に抑え、録画データの確実な保存を目指しました。
PDC機器の単体の振動/衝撃試験では問題なく動画撮影ができましたが、RATS-Lの振動/衝撃試験で動画の一部が保存されない問題が発生しました。分離する機構を備えた通信線の接続部に振動による微細な接触不良が生じていることが原因と考えられ、RATS-Lの記録媒体への通信は観測ロケットの運動が安定したノーズコーン開頭後に変更する必要がありました。一方で、PDC-CAM側の記録媒体の通信速度の制約から2つのPDC-CAMが撮影した動画を同時に保存することは困難でした。そこで、片方のPDC-CAMで撮影された動画は振動中であっても直接RATS-Lへ通信して書き込むように動作を変更しました。2つのPDC-CAMが搭載されているからこその、片方は着実な、もう片方はより挑戦的な実証をすることにしました。
フライトオペでは、打ち上げ時の振動中にRATS-Lに通信し保存した動画についても、問題がないことを確認でき、期待以上の成果が得られました。PDC-CAMで撮影された静止画、動画を見たとき、何とも代えがたい感動を覚えました。しかしながら、上記のRATS-Lとの通信について、より早い段階での検討や検証で洗い出すことができていれば、より確実性を高めた設計ができていたことは明らかです。一方で、PDCとしての冗長性の高いシステム設計がされていたことが、今回の問題が致命的な不具合に繋がらず、挑戦的な実証を可能にしたと考えられます。
この経験は、異なるPI間での調整の難しさ、事前の十分な検証の重要性を再確認させられるものであるとともに、宇宙研のプロジェクトの中でも挑戦的な実証が可能な観測ロケットならではのLessons Learnedであると思います。
最後になりますが、本プロジェクトは私自身にとって、非常に重要な経験になりました。開発時や嚙合せ試験、フライトオペなどの場で様々な知識や経験を教えてくださった先生方、研究者、開発担当者の皆様、本プロジェクトを支えていただいた多くの関係者の皆様、この場をお借りして、深く感謝申し上げます。今後の宇宙科学研究所の観測ロケット実験のさらなるご発展を心より願っております。