COLUMN
「ロケットに載せる」機器選び・設計の難しさ
名古屋大学 特任助教 後藤啓介
デトネーションエンジンシステム(DES)の宇宙飛行実証を目的とした、観測ロケット S-520-31号機による打ち上げ実験のDES班の一員で、回転デトネーションエンジンの開発を担当した、名古屋大学未来材料・システム研究所特任助教の後藤啓介と申します。約4年半、実験計画の立ち上げから最後のフライトオペまで携わらせて頂いた今回の実験を通じ、私が経験し感じたことを一つ、事例を交えお伝えできればと思います。
「ロケットに載せる」ことを理解・想像した上での機器選定・設計が重要
「飛行実験は実験室の実験とは大きな違いがある」ということを、あらゆる面で痛感しました。ここではエンジン、供給系の機器選定・設計で起こった問題を一つ取り上げたいと思います。その問題は、DESの振動試験中に電磁弁からGN2内部リークが発生したという事象です。この電磁弁は実験室で使用している通常の民生品でした。当時、電磁弁単位での振動試験を行った際は、一定以上の振動レベルをポペット方向に加振すると、ポペットが動いて上流のガスが洩れるものの、ポペットと直交方向に加振しても洩れることはありませんでした。それゆえに、ポペットが機軸と直交方向になるようにDESに艤装すれば、問題にはならないだろうと当時は甘く考えていました。ところが、組み上げた後のDES単体の振動試験にて、GN2の内部リークが発生してしまいました。これは電磁弁の艤装ブラケットを薄くし、限られた搭載域に入るよう電磁弁を二段付けとしたことで、上段の電磁弁がブラケットを介したクロストークでポペット方向に大きく振動したことが原因でした。
この問題を受けて、早急に飛行試験へのインパクトを検証する必要に迫られました。すぐに手元の予備の電磁弁を分解し、仕様書に記載されている情報以上に調査して、バネマスの特性値、洩れる流路構造や閾値を一から調べ直しました。これは選定機器のミッション機能のみしか意識せず、「ロケットに載せたらどうなるか」まで想像して事前に選定できなかったことが自分に跳ね返ってきた結果です。
また、実際の飛行試験時の環境は環境試験とは同一でないことも肝に銘じる必要があることを痛感しました。「飛行試験で本当にどうなるかは、様々な角度から検証が必要」と今では認識しています。DESが飛行試験で本当に洩れるかは、フライト時のランダム振動の計測データを基にし、DES振動試験結果、電磁弁の構造という要素レベルまで含めて多角的な検証を行いました。結果的には、洩れるリスクはリフトオフの瞬間のみで、ほとんどGN2は洩れないという結論になり、実飛行でもその通りでした。
このようにフライト環境を想定した設計は、ロケット実験に馴染みのない私のような新参者は見落としがちで、一番問題が発生しやすい箇所ではないかと思います。
最後に、このプロジェクトではたくさんの方に助けて頂きました。本当にありがとうございました。この欄に収まりきらない程多くのことを学び、成長させて頂きました。今後のJAXA宇宙科学研究所の観測ロケット実験の更なる発展を、心から願っております。