COLUMN
現場の空気と思いに触れる経験
総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻 5年一貫制博士課程3年
清水 里香
宇宙科学人材育成プログラムの研修生として、S-520-34号機に参加させていただきました。内之浦では3日間の短い期間でしたが、ロケット・ランチャ班、レーダ班、軌道計画班、搭載観測機器班など、複数の班の活動を見学することができました。打ち上げを見届けられないことは心残りですが、現場の空気に触れそこで活躍する方々の熱意を感じると同時に、自身も感情が動かされる貴重な経験となりました。
今回の研修は、太陽プラズマ現象の解明に貢献するプロジェクトを提案・実行すると同時に、必要な観測装置を開発・実現できる研究者を目指す上で、大きな一歩となりました。実際に現場で活躍している方々を目の当たりにすると、文章などを通して知るのとは違い、より敬意や憧れの気持ちをもちました。
プロジェクトの全体を俯瞰する広い視野を身につけたいと考えて本研修に参加しましたが、振り返ると、細かな一つひとつの作業にも強く興味を惹かれていました。内之浦で見学した組み立て作業では、そこまでするのかと、もどかしいほど慎重に、少しずつ作業が進められていく様子が印象的でした。慣れた手つきでありながらも指差し確認や声かけを欠かさないことで、ミスを限りなくゼロに近づける確実な作業が伺えました。見学者としては、ロケットが組み上がっていく様子に高揚感を覚える一方で、現場には常に緊張感が張り詰めていたのが記憶に残っています。このロケット実験を必ず成功させるという信念が伝わってくるようでした。このように現場の空気感だけでなく、そこに関わる方々の思いを間近で感じられるのは、あの距離感で体感しなければ得られない、実習の醍醐味の一つだと考えます。
私はこれまでに、米国の観測ロケット実験に参加した経験があります。その際には、搭載科学装置の一つを担当しました。今回の研修で、日米の作業方法や空気感の違いを感じつつも、見えなかったところで数多くの作業が行われていたことを改めて実感しました。今後、科学ミッションに関わっていく中で、科学者・技術者に関わらずお互いに敬意を払える関係を築きたいと思いました。
過去の研修生のコラムを拝見すると、いずれかの班に属して集中的に学ぶ経験もできれば、さらに良かったとも感じます。しかし一方で、班に属さない新たな研修スタイルによって、それぞれの任務にあたる方からお話を伺えたことで、プロジェクトに関わる方がどのように考え、行動しているのかの一端に触れられ、同時にプロジェクト全体を俯瞰して見る機会が得られたこともまた貴重でした。このような機会を与えてくださった観測ロケットグループや科学推進部、そして今回出会った肝付町の皆様や研修生の方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。
観測ロケットS-520-34号機が無事に打ち上がることを祈願いたします。