No.204
1998.3

<追悼>   ISASニュース 1998.3 No.204

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山本教授を偲ぶ

       鶴田浩一郎

 山本達人さんが急逝されて1週間が経ちました。まだ,本当に起きたことだと思えないというのが偽らざる気持ちです。今にも「ちょっといいですか」といって温和な顔が覗くような気がしてなりません。

 山本達人さんは平成4年,東京大学から宇宙科学研究所太陽系プラズマ研究系に助教授として赴任して来られました。ちょうど Geotail 衛星打上げ直前の忙しい時期で,着任早々,次々に大変な仕事を引き受けることになりました。彼は的確な判断力と実行力,温厚な人柄でプロジェクトチームの皆から頼りにされる存在となりました。研究面でも磁場計測チームの中核として磁気圏の尾の構造について重要な結果をいち早く導き指導的立場を確立しました。彼は我々の研究系にとって大切な存在であったばかりでなく学会,国外の研究コミュニティにおいても次の世代を担う指導的研究者として注目を集めておりました。このことを裏付けるように平成8年には若干39歳で教授に昇任されました。

 山本さんは Geotail 衛星打上げ後は,日本で初めての惑星探査機PLANET-Bの科学主任として科学グループの取りまとめに当たることになりました。初めての惑星探査に伴う様々な難問に寝食を忘れて取り組んで来られました。軽量化対策,EMC対策,運用計画と探査機開発のあらゆる側面で彼の才能が発揮されて難問の解決を見ることが出来ました。山本さんの働きなくして現在のPLANET-Bはありえないと言っても決して過言ではありません。

 しかし,大変残念なことに,この頃から彼の身体を病魔が蝕み始めていました。精神的にも肉体的にも大変苦しい状態であったにもかかわらず,彼は持ち前の強い精神力で普段と変わらぬ態度で我々に接し通しました。「検査にいってきます」という言葉が最後になってしまいました。彼が精根を傾けて進めてきたPLANET-Bの打ち上げに立ち会ってもらうことが出来なかったことが悔やまれます。今は,PLANET-Bを成功させることが,彼への唯一の手向けと考えております。

(つるだ・こういちろう)

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達人へ

       早川 基

 今机に向かいながら,君との付き合いを思い出してこの文章を書いています。学部の演習の時間にトランプをしていた事や,スキーに皆で行っていた時がついこの間のように感じられるのですが,あれから20年以上もたっているのですね。その間,公私にわたり親しい友人として付き合わせてもらってきましたが,不思議な事にどんなに記憶を辿ってみても君と言い争いをした記憶が全くありません。君の人柄のせいでしょうね。でも,もしかすると,君は一を聞くと十が分かってしまう人でしたから,言い争いになる前に終わってしまっていたのかもしれませんね。

 君は「達人」の名のとおり何でもできる人でしたね。学業は言うに及ばず,軟式テニス,ギター,電気回路,プログラム,はては漫画の主題歌までおよそ苦手な物はないんじゃないかと思うくらい何でも良くできましたし,色々な事を素早くこなしていましたね。おかげで,随分と色々なことで助けてもらいましたね。君は普通の人の二歩も三歩も先が見えるせいか,はたまた何でもすぐにこなしてしまうせいか,それとも人に任せると待っているのがまだるしかったのか,随分と色々なことを引受けていましたね。でも君は驚異的な体力と精神力とでいつも何とかしてしまっていましたね。今度の病気にかかった時も,いつも元気に退院してきていたので,今回もまた戻ってくると思っていました。それなのに,久しぶりに大雪が降った日に君の家まで車で送っていったのが君と話す最後になってしまうなんて思ってもみませんでした。

 君が死んだ日,お通夜の日,お葬式の日,みな雨が降っていましたね。誰かが「天が達人のために泣いているようだ。」と言っていました。でも,君を連れていった後に泣くぐらいなら,我々の所に残しておいて欲しかった。君の負担を少しでも肩代わりをしていれば今でも君の笑顔をみられたかもしれないと思うと悔やんでも悔やみきれません。これからもまだまだ一緒にやっていけると思っていたのに,なぜ我々を後に残して先に逝ってしまったのですか。

(はやかわ・はじめ)

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