No.204
1998.3

ISASニュース 1998.3 No.204

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第2回 これまでの火星探査
− 何がわかったのか,何がわかっていないのか

佐々木 晶  

 火星探査は失敗の歴史である! というと,PLANET-Bの打上げの前に,何を言う,縁起が悪いことを言うな,とお叱りを受けるかも知れません。2回の失敗のあと,火星にはじめて到達したのは,旧ソ連の Mars1で,1963年>6月19日に火星に接近。しかし,通信機能の問題のため,火星に関するデータは何も送信してきませんでした。初めて火星の撮像に成功したのは,アメリカの Mariner4で,1965年の7月14日のことでした。現在まで,30機近い探査機が火星へ向けて飛びました。しかし,その実に3分の2が,失敗もしくは途中で交信が途絶えてしまったミッションです。最近では,Phobos 1,2および Mars Observer の交信途絶,Mars 96 の打上げ失敗が有名なところ。火星探査で科学的に質・量とともに価値のあるデータをもたらしたのは,Mariner9 Viking 1,2しかなかった状況でした。長いブランクの後,昨年 Pathfinder は成功してすばらしい地表画像を送信してきました。しかし Mars Global Surveyor は,Aerobraking のトラブルのため,軌道計画の変更を余儀なくされ,観測開始が遅れています。火星には「緑色の小人」がいる,近づいてくる探査機を打ち落としているのだ,というジョークがあるくらいです。

 数々の失敗にもかかわらず,火星探査は様々な形で,続々と計画されています。それだけ,火星という天体が魅力あるものなのです。

 火星の表面には,大量の水が流れて形成された流跡地形があり,アウトフロウチャンネルと呼ばれています。長いものは,赤道地域のマリネリス峡谷付近を源として,延々数千キロメートル,北極の平原地域まで到達しています。また,衝突クレーターに覆われている南半球の古い高地地域にも,バレーネットワークと呼ばれる地下水の流出による谷地形が広範囲に存在しています。30−40億年前の火星は,今よりもはるかに温暖で,表層付近には水が存在していたことは明らかです。火星の北極をとりまく地域には,何度か広大な海が出現したと主張する研究者もいます。最近,火星隕石の中に生命の証拠が発見されたのではないかと話題になりましたが,少なくとも岩石が液体の水の存在下で変質を受けていたことは事実です。

 この温暖な環境を維持する機構として,二酸化炭素の温室効果が考えられています。現在の火星大気の表面気圧は1000分の6ですが,これが数気圧程度あると,表面温度は270Kになり,液体の水が存在できる。しかし,過去の大量の二酸化炭素大気はどこにいってしまったか。また,地形を作った液体の水はどこへ消えてしまったのか。この疑問は解決されていません。火星大気の二酸化炭素については,太陽風のスパッタリングにより40億年の間に散逸したという考えがありますが,その機構は実証されていません。

 火星には比較的年代の若い,タルシス,オリンポスといった巨大火山があります。衝突クレーターの数密度を使った年代決定からは,数億年程度の若い火山活動も存在したらしい。また流水地形の中には年代が新しいため,温暖な気候ではなく火山活動が原因と考えられるものもあります。はたして火星が,現在でも活動的で火山活動のある天体なのか,それとも内部は冷え固まって死んでしまった天体なのか,という点は大きな問題点です。

 このような火星環境の重要な問題点を解決するためには,今まで以上に地形を詳細に観測すること,炭酸塩鉱物・含水鉱物を探査すること,熱流量や重力を探査することが必要で,現在アメリカを中心に進められているハ探査では様々な計画があります。宇宙研が今夏打ち上げる火星探査機PLANET-Bでも,高層大気の直接分析や紫外分光により,現在の大気の散逸の様子を調べることにより,火星大気進化の手がかりを与えます。また,火山活動によって放出されたガス成分であるヘリウム4の大気中の量を測定することにより,現在の火星の火山活動に制約を与えることができます。

(東京大学大学院理学系研究科 ささき・しょう)
<PLANET-B打上げまで あと4ヵ月>


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