No.199
1997.10

ISASニュース 1997.10 No.199

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新スペースVLBI入門 (4)
仮想レンズをつくる

村田泰宏

 前回は,レンズが大きければ大きいほど,言い方を変えれば「電磁波(光)を集める領域が大きければ大きいほど得られる天体の像の解像度が上がります。」というお話をいたしました。ちゃんと計算すると解像度は,光の波長に反比例し,レンズの大きさに比例します。望遠鏡を大きくすればするほど,解像度は上がって行きます。最先端の望遠鏡は,可視光や近赤外線で 10mくらい,電波の領域だとプエルトリコにある谷間に作った300mのアレシボの望遠鏡があります。ただ,300mあっても可視光と電波では,波長が10万倍も違いますので,いくら望遠鏡が大きくても解像度では,可視光のほうがいいです。ただ,可視光の場合は,大気による星からの光の乱れが大問題で,実際は解像度は1秒角程度で頭打ちになってます。だから,ハッブル望遠鏡が宇宙へ行ったり,「すばる」望遠鏡で能動光学を使った技術を開発したりしているのです。

 一方,電波天文学者もがんばります。はじめの回で述べたように干渉計やVLBIという,2つ以上の望遠鏡を組み合わせて観測をする技術をあみだしました。普通の望遠鏡では,図1のように光を集めて焦点で像を結びます。凹面鏡の方が多いですが,とにかく光を曲げて焦点に集めます。
VLBIの場合は,複数のアンテナを配置し,天体からの信号を図2のように集める前に受信し,その電波をアナログデジタル変換を行って信号を符合化してから磁気テープに記録します。同じことを,ほかの望遠鏡も同時に行います。

 そして,図3のように磁気テープを再生し,焦点に光を集めます。データをデジタルアナログ変換して,またレンズを通してやっても焦点に光は集まりますが,そんなめんどうくさいことをしなくても,もうすでに信号は磁気テープに記録されているので時間を戻したり,進めたりは思いのままです。時間をあやつって,波の山と山を合わせてやればそれで焦点を結んだことになります。その時間合わせと,波と波の重ね合わせをレンズでやるかわりに計算機でやってしまうのです。計算機といっても,それぞれのアンテナからのデータ量は,128 Mbps (はるか/VSOPの場合)と早いので, 汎用の計算機ではとても計算が追いつきません。「相関器」とよんでいる,干渉計で焦点を結ぶことを目的に作られた専用計算機で処理を行います。

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 後で処理することによりもう1ついいことがあります。図4(a)は,ある瞬間に逆に天体からその天体を観測している望遠鏡群がどう見えるかを示しています。 (b)はまた別の時間です。衛星の場合は軌道運動で,地上の望遠鏡は地球の自転で仮想的なレンズの中を動き回ります。したがって,天体からの電波が観測中に変わらなければ,時間をかければ仮想的なレンズ面を,望遠鏡がレンズ面を埋める程なくても,望遠鏡自身の動きによって,そこそこの仮想レンズを作ることができてしまうのです。とくに動きの激しい衛星の「はるか」は,仮想レンズを作るのに大活躍します。

(むらた・やすひろ)



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