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「あかり」が見た星の誕生と死


 赤外線天文衛星「あかり」は,5月に本観測を開始してから3ヶ月がたち,1回目の赤外線天体探査を空のほぼ半分の領域について終了しました。今月号ではこのデータの中から,「あかり」がとらえた星の誕生と死にまつわるドラマの一端をご紹介します。


図1 「あかり」による散光星雲IC1396の赤外線画像  
観測波長9μmと18μmの画像から疑似2色合成。
星雲の広がりは約3度。           


 図1は,「あかり」搭載の近・中間赤外線カメラがとらえたケフェウス座の散光星雲IC1396の赤外線画像です。観測波長9μmと18μmの画像から色合成したものです。IC1396は我々の太陽系から3000光年弱の距離にあって,太陽より質量が数十倍大きい星が活発に生まれている領域です。画像の中心付近で生まれた大質量の星が,その周囲40光年にわたって星間物質(ガスと塵)を吹き払い,加熱しています。この画像は,周囲に掃き寄せられた星間物質の縁が暖められて赤外線で光っている様子を鮮明に映し出しています。また,そこでは次の世代の星が次々と生まれています。中央右に見られる明るい塊は,可視光では暗黒星雲(通称「象の鼻星雲」と呼ばれている)として見えます。密度が高いため吹き飛ばされずに残った星間物質の塊で,ここでも新しい星が生まれています。「あかり」の画像は,この広い領域にわたる星間物質分布の全貌を初めて明らかにするとともに,星の誕生の連鎖を見事に描き出してくれました。


図2 「あかり」による赤色巨星うみへび座U星の赤外線画像
観測波長は約90μm。             

図3 ガスを吹き出す赤色巨星の想像図


 図2は,うみへび座のU星と名付けられた,太陽から約500光年のところにある赤色巨星の遠赤外線画像です。「あかり」の観測装置の一つである遠赤外線サーベイヤが,この星のまわりに広がる塵の雲をとらえました。太陽のような星は,その生涯の最後に大きく膨らんだ赤色巨星となります。赤色巨星の表面からは,星を作っていたガスが宇宙空間に吹き出します。図3はこの状況を描いた想像図です。吹き出したガスの中では,星の中で合成された元素から塵が作られ,ガスとともに広がっていきます。「あかり」の画像は,1万年くらい前に吹き出したガスの中で作られた塵が,中心の星を取り囲んでいる様子をとらえています。星が生涯の最後に生み出した塵は,やがて次の世代の星に取り込まれ,あるいはそのまわりで作られる惑星の原料となります。私たちの地球を構成している元素も,はるか昔にどこかの赤色巨星が生み出したものなのでしょう。なおこの星は,空が暗い場所なら肉眼でも見ることができます。双眼鏡があれば市街地でも見えるでしょう。ただし,私たちの目には中心の星しか見えません。宇宙でひそかに進行するこのドラマは,赤外線を使って初めて見ることができるのです。

(「あかり」プロジェクトチーム 村上 浩,尾中 敬,山村一誠) 


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