インドの月探査衛星による 非熱的中性粒子の観測計画
2007-08年に打上げが予定されているインド初の月探査衛星Chandrayaan-1は,高度100kmの月周回軌道に投入され,2年間にわたって月表面に存在する元素や鉱物の分布を調査し,さらには詳細な地形画像を取得します(図)。
月を取り巻く大気は非常に希薄です。そのため,太陽風や磁気圏中に存在する高エネルギー粒子は,大気に衝突することなく月表面にまで直接降り込みます。その結果としてたたき出される中性粒子は,月表面の元素組成を反映したものとなっています。この中性粒子を観測して月表面の元素組成を得ることが,私たちがChandrayaan-1衛星に載せようとしている中性粒子観測器(CENA)の目的です。
このような,中性粒子を直接観測することによって月表面を構成する元素を明らかにしようとする試みは,世界でも初めてのものです。例えば,月の極地方のクレータ底には,常時太陽光の当たることのない領域が存在します。そこには氷が存在するかもしれません。しかし,太陽光が月面に当たっていなければ元素組成を同定できない観測器もあります。これに対し,太陽光の当たらないクレータ底であっても中性粒子はたたき出されると考えられます。中性粒子観測器はほかの観測器とともに,相互に補い合いながら,月全球にわたる元素組成分布を得ていくことになります。
なお,これまで月表面からたたき出された中性粒子の観測が行われなかった理由は,観測そのものが技術的に難しかったためです。私たちはそれを可能にする観測器を考案しています。
(浅村和史,向井利典[ISAS/JAXA]ほか,
CENA開発グループ[ISAS/JAXA,スウェーデン宇宙研,ベルン大])
JAXA:宇宙航空研究開発機構
ISAS:宇宙科学研究本部
|