No.273
2003.12

能代多目的実験劇場

ネバーエンディングストーリー

ISASニュース 2003.12 No.273 


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「コントローラスタートします。よーい,はい6564……」
10月31日11時10分,再使用ロケット離着陸実験,天気で遅れて回目最後のフライト。
「エンジン予冷OK
「バルブ操作搭載側へ」
「タンク調圧正常」
「水素検知器ゼロ」
SJOK
GPS正常」
……2019……
「推力制御弁OK
…………
「はい点火器OK
「エンジン点火正常
…………
「エンジン停止!!
「なに!?
……離陸1秒前でエンジン停止……

「着コネはずした後です
「内部電池は
20分!
「エンジンは
「搭載計算機側から止めたようです」
「ちょっと待て,まず安全にだ。各班異常ないですね」
「機体周り異常なしのもよう」
「水素検知器ゼロ」
「計測も正常です」
「エンジンはエマストモードで正常に停止,搭載側でパージ中」
OK,まずタンク減圧しましょう」
「コマンド打て」
……液水,液酸タンク減圧……
「航法系異常検知の信号で止めたみたいです」
「太陽フレアでGPSアウトなんてのじゃないよな,もっと調べろ」
「エンジン班2名外部コネクタとカプラ接続に行きます」
……地上操作ケーブル機体に接続。エンジンバルブ操作権搭載から地上へ,この辺りは着陸後の操作と同じで手慣れている……

「テレメデータではこれ以上分かりません。機体に行って内部データをダウンロードしないと」
「ちょっと待て,まだ水素酸素入っとる」
「エンジン班,水素は
「あと2回分
「酸素は
「これで終わり,今注文できるか電話してます」
「ヘリウムは
「これで抜いたらアウト,今頼むと東京から4〜5日
「よし,水素取りあえず排液しましょ」
「タンク加圧,排液弁開」
……
「酸素注文しました。昼には入ります」
「それでは酸素も抜けますね」
……水素酸素残液処理終了……

「よし,これで内部データおろしに行って良し」
「搭載計算機班2名行きます」
「エンジン班,もう1回やるとして再開は
「マイナス1時間からでいいでしょ。タンク冷えてるし」
OK,搭載計算機班,1時間やるから原因調べてくれ」
……
「えーっと高圧ガスの届けはどうなってたっけ
「今日,月末で切れます」
「そーか,あとは……」
「管制班モチハラ新婚旅行,明日朝10時半新横浜」
「明日はなしか。くっそー今日まで引っ張ったのに……」

……すでに当初の実験終了日を4日ほど過ぎている。この数日の相模原との電話……
「天気で延期を余儀なくされ,兵糧が尽きかけています。実験延長していいですか
「統合後は,プログラム単位でお金は責任を持ってやって下さい」
「じゃあ残りを切り上げて帰りますけどいいですか
「……」
「続けてやってもいいんですか
「……」
「昔のえらい先生は『いったん実験に行ったら何があっても終わるまで帰ってくるな。金の心配はせんでよろしい。現場は実験主任に任せる』と言ってくれたよな」
……

「分かりました。エンジン着火の衝撃で加速度が制限を超えて止めたようです」
GPSじゃないんだな,何で衝撃大きいか
「エアロシェルから廻ったか
「ケツの目張りか
……環境計測のために機体底面の止め方をいろいろ試して今回がっちり固定……
「構造班,目張り全部はずせますか。この前と同じにしたいんだけど」
「ええーっ,昨日残業3時間もかけてやったのに」
……

「この加速度制限をアマくして飛ばしてたらどうなった このデータでシミュレーションできるか」
「やってみます」
「時間は
「うーん30分
……
「えーと,これだと2時半か。GPS?」
2時半ごろは衛星切り替わりでダメです。2時50分より後」
「エンジン班は
「今メシ食ってます」
2時50分離陸で準備できますか
「はいよ,エンジン点検済み」
……
「せんせい ちょっと困ります。HQと報道には2時半までで通知してあります」
「おいモチハラ,そのメガネのにいちゃん,口にガムテープ貼ってその裏にしばっとけ」
……

「シミュレーション終わりました。この加速度ピークでは航法演算には影響ありません」
「ホントだな」
「あー,はい」
「間違ってないな絶対に」
「いーうー」
「もう忘れてることないか
「えー……」
「さてと……エンジン班いいですね。よーし,もう1回行きますか」
「おー
「えーと搭載パラメータ書き換えて,ここから再開で,これとこれはスキップで,2時50分で大丈夫だな。あっ内部電池は
「もう交換しました」
「いつも足引っ張るのに早いな……ホイ管制,ここからスタート。各班ひとまわり状況聞いてくれ。これだと明日,新横浜間に合うよな」……

「実験班にお知らせします。スケジュールを再開します」
……再度水素酸素充填,準備完了,コントローラスタート,エンジン点火,離陸上昇,実験場を見下ろして着陸,全部正常……
「よーしOK,これで生きて帰れる。高度は
「えーと42m
「なに ちょっと低いか
「イヤーはい。あのー,JAXAマークが重くて上がらなかったみたいです」
「そーか,納得できるな。まあいいっか。次,来年
……
「再使用」の無限地獄はまだまだ続く……

(アフターファイブ能代運営委員会:作) 
この物語はフィクションであり, 
登場する人物や団体や実験機などは 
実在のものとは無関係です。 


実験場を見下ろして飛行



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