アサバスカのオーロラ顛末記
鶴 田 浩 一 郎
エドモントン(カナダ,アルバータ州)から2号線を120km程北上するとアサバスカに到着する。ロッキーを水源とするアサバスカ川の南岸に展開する人口1500程度の小さな町である。町外れには広い敷地と立派なオフィスを持ったアサバスカ大学がある。小さな町は大学生であふれ...と書きたいところだがこの大学に学生は居ない。既に30年の歴史を持つ通信教育だけの大学である。
昨年の暮れに寄宿先のカルガリーから車をかってこの町を何度かおとずれた。地磁気緯度62度のこの町は脈動(パルセーティング)型オーロラの出現頻度が高い。はじめてこのオーロラと私が出会ったのは20年程前である。日本とカナダ共同の脈動型オーロラキャンペーンに参加して不思議なオーロラだと思った。しかし,「あけぼの」衛星を始めようとしていた頃で忙しさにかまけ短い論文一つ書いてそれっきりになっていた。定年退職を機にもう少しこのオーロラに深入りしてみようかというのが今回のアサバスカ訪問の動機である。
昔は大きなアンテナとイメージインテンシファイアーを備えた撮像装置を介しての出会いであった。装備だけで優に100kgはあったであろう。今回はいたって軽装である。少し高級な市販のビデオカメラ,直径1メートルのループアンテナ,いつも使っているノートPCが用意した装備の全てであり全部あわせても5kgにもならない。車の助手席に放り込んで手軽に何処へでも移動できる。20年の間の技術の進歩にいまさらながら感心させられる。
夜の観測だから危険があってはいけないということでアサバスカ大学のサイエンス担当教授Mさんの協力を得て大学の演習畑で観測を行うことになった。地域環境保全の活動家でもある技官のJ女史の話では狼の1家族が住んでいるだけで何も危険はありませんよということだった。ともあれ,Mさんと一緒にオーロラのためし撮りをしようということで最初に撮ったビデオの一こまが添付した闇夜の烏のような写真である。空の100km X 140km程度を切り取った形になっている。モヤモヤーと明るい部分がオーロラである。20秒から30秒の間隔で明るくなったり暗くなったりするので脈動型と呼ばれる。実はこの形が何で作られているか未だ確たる理論は無い。20年経ってもまだ謎多き存在である。
最初の夜がうまくいったのでその後もうまくいくだろうと思ったが相手はやはり手強かった。町の人の話では「いつもの年は天気が良い」そうであるにもかかわらず11月と12月の新月をはさんで通算20日程の間,空が晴れたのは4夜だけであった。このうち何とかお目当てのオーロラが出たのは2夜のみであるから何とも具合がよろしくない。普段の行いが良くなかったようである。
せっかくのオーロラとの再会がこんな形で終わったため,是非とももう一度挑戦をしたいと考えている。本物のオーロラをCDにして皆さんに見てもらえる日が来ることを楽しみに機材の整備をしているこの頃である。
(つるだ・こういちろう)