No.254
2002.5

ISASニュース 2002.5 No.254

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マンガ and ユーロ in パリ

的 川 泰 宣  

 シャンゼリゼからちょっと入った辺りで,来る10月にヒューストンで開催される国際宇宙航行連盟総会(IAC)のプログラムづくりの会議が開かれました。これは文字通り世界最大の宇宙工学の学会です。今年は同じく世界最大の宇宙理学のイヴェントである宇宙空間研究委員会総会(COSPAR)との共同開催で“World Space Congress”というかたちで行なわれるので,賑わいが今から見えるようです。各セッションとも論文応募数が非常に多いように見受けられました。

 半日ほど長途半端な時間があったので,これまであまり足を向けていなかったフォーラムの付近をうろつきました。ポンピドー・センターのシャガールは圧巻でした。前から一度行ってみたいと思っていた巨大な本屋さん“fnac”は見事なデザインで,地下に入っても陽射しが明るい独特の設計。感心しました。おまけにあちこちに座り込んで本を読んでいる若者たち。文字通り「立ち読み」ではないのですが,日本なら間違いなく追い出されるでしょう。

 fnacには,もちろん“history”とか“science”などのコーナーがあって,それぞれフランス語で書いてあるのですが,その多くはフランス語をやったことのない私でも何となく連想で分かります。

 ちらと見上げた視線の先に“Mangas”という文字を見つけました。(これは私の語彙にはないな)と思って周囲を見回すと,これが「漫画」だったのです。(なるほど日本は世界を代表するマンガ国なんだ)と,喜ぶべきか悲しむべきか態度を保留していると,松本零士さんの『銀河鉄道999』を「座り読み」している青年が目に留まりました。

 これくらいの男の子なら英語は大丈夫だろうと,「面白い」と声をかけると,目を上げると即座に「最高」と返ってきました。「パリでは日本のマンガが流行っているんだね」とたたみかけると,「うん,とくに《レ・ヴヮイヤージュ・ドゥ・シーロ》なんか,今はすごく売れてるよ」とのこと。「それ日本のマンガ」と訊ねると「エッ,知らないの」と怪訝な面持ち。日本ではマンガについての無知を恥じたことのない私が,妙に窮屈な感情にとらわれてその場を離れました。

 コーナーの裏側に回ったら,そこは『千と千尋の神隠し』が山のように積まれていました。これくらいは私でも表紙の絵で分かります。そしてその表紙に『Les Voyage de Chihiro』と。さっきの子に「アンタの発音が悪いんだよ」と言いに帰ろうかと思いましたがやめにしました。

 1年ぶりのパリはすべてユーロに切り替わっていました。もちろん反対も多くあったようですが,伝統のあるフランやマルクからサヨナラを告げてまで通貨を統一する意志はすごいと思いました。一緒に食事をしたフランス人の友人に感想を聞くと「どうってことないよ」という答えが返ってきました。フランス人って,こういう「さりげない」というか「そっけない」言い方をするので本音の部分はいまひとつ分かりません。しかしともかくヨーロッパは100年200年1回の大変革をなしとげつつあるのだと思います。

 通貨の問題になると生き生きと語るフランスやイタリアの友人たちを見ていると,日本の新聞を連日のように飾る汚職と詐欺と嘘つきのニュースが,時代に大きく逆行しているように見えて,日本の惨めさが浮き彫りになります。政治家や官僚という人種は,どこの国でもリーダーに違いありません。アメリカのリーダーが単独行動主義の道を断固として歩み始め,ヨーロッパのリーダーが団結して現代のフランク王国をめざす歴史的実験に挑んでいる時,日本のリーダーは何をしているのですか。

 日本人が何世紀もかけて作り上げてきた高いモラルが,国のリーダ−を自称している人々から大きな音をたてて崩れていきます。これでは,子どもたちのモラルが育たないのも当たり前です。大人たちは,月並みな言葉ですが「立派な人生」を送らなければなりません。彼我の国情の差を何とか私たちの発奮の動機にしなければならないと感じながら,日本に帰ってきました。

(まとがわ・やすのり) 


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