No.254
2002.5

<研究紹介>   ISASニュース 2002.5 No.254

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“Earth as a Radio Star”
〜 GEOTAIL衛星が見た地球の電波活動 〜

宇宙科学研究所 笠 羽 康 正  



 地球は「電波天体」です。

 宇宙の電波源は,大まかに熱エネルギー起源の「熱的電波」と,高エネルギー粒子エネルギーが起源の「非熱的電波」に分かれます。銀河ジェット・超新星残骸・パルサーなどは後者です。地球電波もこの仲間で,磁気圏活動による高エネルギー電子が源です。

 宇宙から地球を見ると,数MHz以下で様々な電波が放射されていますが,これらは電離層で遮蔽されて地表には届かないため,1970年代以降に人工衛星で発見されてきました。磁気圏活動は,「惑星に阻まれた太陽風の運動エネルギーが磁場の形で蓄積し,それが爆発的に開放」される現象です。地球の電波放射エネルギーは,元の遮られた太陽風エネルギーの約20万分の1数百万kW程度です。“大型発電所数個分”と言えば小さそうですが,NHKラジオ第一(東京:594kHz)の1万倍以上の出力です。

 地球の主な電波は,オーロラキロメータ波(AKR),非熱的連続波(Continuum波),電子プラズマ2倍高調波(2fp電波)のつです(図1・表1)。この観測には二つの意義があります。

 1)電波放射機構の実験室:電波源の中を直接観測することができる地球は「宇宙の実験室」という側面を持っています。
 2)磁気圏の遠隔観測手段:磁気圏研究は「その場観測」が主要手段ですが,リモートセンシング可能な電波は,全体の活動度を実時間で見る貴重な手段の一つです。

本稿では,GEOTAIL衛星が見た「活動天体・地球」の電波活動をご紹介いたします。


図1 地球が持つ主な3つの電波源

表1: 主な地球電波源の位置・周波数・出力
電波源観測される周波数出力
AKR波 オーロラ発光領域につながる磁力線上数十〜600kHz 数百万kW
Continuum波 プラズマ圏界面・赤道数〜500kHz 数千kW
2fp 前面衝撃波に“接する”磁力線上数十kHz 数十kW
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1.オーロラキロメータ波(Auroral Kilometric Radiation:AKR波)

 最も明るいこの電波は,数十〜600kHzでバースト的に変動します(図2左)。オーロラと強い関係があり,また波長数kmのためこの名称がつきました。

 オーロラを南北極で光らせるのは磁気圏活動に伴って加速された電子です。この電子が磁力線沿いに降りてくる途中でAKR波を励起します(図2右)。励起機構として有力なのは「サイクロトロンメーザー」です。これは電子が磁力線を旋回する「サイクロトロン運動」と電磁場が結合するもので,この周期=「電子サイクロトロン周波数」近傍の電波を発します。このため,周波数は磁場強度に比例します。


図2 AKR波:(左)スペクトル [横軸は時間,縦軸は周波数]。(右)電波源。


 AKR波の励起条件は二つあります。一つは「電子サイクロトロン周波数が電子プラズマ周波数〔(密度)に比例〕より十分大」です。極域は磁場が強く(前者:数百kHz)密度は低い(後者:数十kHz)ため,この条件を満たします。この領域に「高エネルギー電子の供給」があると電波が励起されます。このため,AKR波はオーロラ電子の量・強度を示すという性格を持ちます。愛媛大・村田さんが提案した「AKR INDEX」はこの点に着目したもので,AKR波の強度を磁気圏活動の指標として使います。

 AKR波には,高周波成分での「南北非対称=季節変動」が発見されています。従来,オーロラ活動は磁力線でつながる両半球で同規模とされてきました。ところが,GEOTAIL(私)とAKEBONO(東北大・熊本さん)によって,AKR波の南北非対称,具体的には「冬半球側が夏半球側より明らかに強い」ことがわかったのです。これは周波数約400kHz以上で見られ,それ以下では顕著ではありません。磁場は低高度ほど強いので,「高度4〜5千km以下のみ高エネルギー電子降下量に季節変動がある」ことになります。

 オーロラは極域上空での電子加速が直接の起源ですが,この機構はまだ解明されていません。「季節変動」は,電子加速領域に極域電離層の温度変動が影響することを示唆するのでしょうか。またその高度の制限は何を意味するのでしょうか。この問題は,AKEBONO衛星グループなどによる「電波源領域」の直接観測によって解明が進められています。


2.非熱的連続波(Continuum波)

 次に明るいこの電波は,数〜500kHzで観測されます。一般に強度変動が小さく数時間継続することから名づけられました。

 電波源は,プラズマ圏と磁気圏との境,「プラズマ圏界面」です(図3左)。Continuum波の励起機構は「線形変換」として知られます。プラズマ圏界面のように「密度勾配が大きく,かつ“壁”と平行に磁力線が走る」場所で有効な機構で,ここにエネルギーが投入されると,電子プラズマ周波数近傍の波が電磁場と結合し,低密度側(=磁気圏側)へ電波が放射されます。この機構では,電子サイクロトロン周波数の高調波で共鳴が起きる結果,電波源の磁場強度に比例した幅を持つ「縞模様」スペクトルが見られます(図4左)。磁場強度の異なる領域で生成された電波が混合して「のっぺらした」電波になることもあります(2左)。


図3 Continuum波:(左)スペクトル。(右)電波源。


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 磁気圏尾部でのエネルギー開放の際に伴って,尾部で高エネルギー粒子の加速が起きますが,この電子がプラズマ圏界面に到達してプラズマ波動を励起,これが上記の機構で電磁波に変換されます。この電子は北極から見て半時計回りにゆっくりドリフト運動しますので電波活動は長時間に及び,朝〜昼側プラズマ圏界面で数時間持続することになります。

 注入直後にはもっと激しい現象が起きないのか  GEOTAIL衛星のデータでは,「箒を右斜め上に掲げた」謎のスペクトルが大量に見つかりました(図3右)。調べるうち,この電波源が真夜中から朝方へ一定速度で移動することがはっきりし,「Continuum波の初期の形で,高エネルギー電子がプラズマ圏界面に到着して最初に励起する電波」であるという解釈に至りました。その後古い論文でこれに触れたものを見つけ,「再発見」になりましたが。

 この「バースト」Continuum波では,「縞の幅」すなわち「電波源の磁場強度」が1時間程度で大きくなります。これは「電波源が地球に近づいて磁場強度が上昇」,つまりプラズマ圏界面の急激な縮小を意味します。磁気圏活動に伴ってプラズマ圏の外側が大きく剥ぎ取られ太陽風中へ押し流される点には数々の研究がありますが,この模様を電波から準実時間で観測できることになります。最近は,IMAGE衛星の高速中性粒子・サウンダ観測によって詳細な観測が行われつつあります。


3.電子プラズマ2倍高調波(2fp電波)

 「2fp電波」は,地球前面衝撃波(Bow Shock)の上流で観測されます。狭帯域電波で,電子プラズマ周波数(fp)の二倍で輝くことからこの名があります(図4左:約50kHz)。

 この電波源は,衝撃波に接する惑星間磁場に沿って延びる“電子フォアショック”です(図4右:点線)。ここでは衝撃波で加速された電子が磁力線に沿って太陽風中へ流出し,強い電子プラズマ波(ラングミュア波:図4左,約25kHz)を励起します。2fp電波はこの強い電子プラズマ周波数(fp)の波がエネルギー源とされます。しかし,電波源および励起機構には直接的な証明がありませんでした。この励起機構は「太陽電波バースト」(太陽フレアに伴う高エネルギー電子が励起)と同じと考えられており,衛星で直接観測できるフォアショック領域は,太陽(含び恒星)フレアに伴う電波活動の「実験室」といえます。


図4 2fp電波:(左)スペクトル。(右)電波源。


 従来,2fp電波源の構造は到来方向・強度・周波数を用いた間接手法で同定されてきましたが,我々は統計的手法による直接同定を試みました。一例として,2fp電波,電子プラズマ波(fp),高エネルギー電子の統計的空間分布を示します(図5)。2fp電波の分布は高エネルギー電子・電子プラズマ波の強い領域と見事に重なり,電波源と電子フォアショックとの関係およびそのスケールを直接示しました。

 また,2fp電波の強度が電子プラズマ波と高次の相関を持つことがわかりました。2fp電波放射の励起機構としては三つの機構が主に提案されてきましたが,このうち「電子プラズマ波の波動 - 波動結合」を支持することになります。この点は電磁粒子コードによる数値実験によって確認を試み,基本的に矛盾がないことを確かめています。

 まだ謎が残されています。2fp電波源は,衝撃波近傍で弱く「二つ目玉的」です(図5左)。衝撃波近くは加速電子で最も明るく輝くと思われていたのですが。また,太陽電波バーストの問題「なぜ高エネルギー電子は地球軌道近傍まで電波放射を継続できるのか」も未解決です。両者は関連する可能性があり,統計的モなだれモ効果を含めた「Stochastic Growth」機構などの検証の場として,フォアショック領域の観測が使われつつあります。


図5 2fp電波,電子プラズマ波(fp),高エネルギー電子の空間分布。
[白円弧:前面衝撃波,白直線:電子フォアショック]


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4.終わりに 〜 他の惑星では?

 他の惑星はどうでしょう。惑星電波の規模は,惑星磁気圏が取り込む太陽風エネルギーにほぼ比例することが知られています(図6)。電波の「出力変換率」は約20万分の1程度でほぼ一定です。この関係則は,異なる規模・環境の惑星磁気圏の基本プロセスには共通したものがあることを示し,重要です。(地球は木星・土星に次ぎ番目に明るい。)


図6 惑星電波強度(横軸)と磁気圏がせき止める太陽風エネルギー(縦軸)の関係
[Desch and Kaiser, 1984を元に改変]


表2:地球・木星・水星電波(水星は予測)
地球木星水星 (予測とその根拠) 
シンクロトロン波××? 地球と同じ理由で,まずない。 
AKR波   水星極域は,第一の条件(磁場強度と電子密度の関係)
△? を満たす可能性が高く,高エネルギー電子が供給され
   れば電波励起は起き得る。 
Continuum波×? 濃い大気がない水星にはプラズマ圏界面=「壁」
   がない。 
2fp   前面衝撃波に伴う電子加速はある。
△? ただし,地球と比べ小さな衝撃波,電子加速効率が
   異なればスケール則は非成立? 
 表2に,水星(予測)・地球・木星の電波についてまとめました。

 最も明るい木星は,地球の100倍以上の磁気圏活動を示します。「AKR波」「Continuum波」(何故か2fp電波の検出がない)相当の電波が確認されており,これに加え,パルサーなどで見られる「シンクロトロン放射」もあります。(より小型で相対論的電子を閉じ込められない地球磁気圏にはない。)

 磁場を持つ惑星として最も小さい「水星」はどうでしょう。水星磁気圏の活動規模は,地球の1/100程度と見込まれています。もし電波の生成条件が整えば「探査機で十分受信可能」ということを意味しますが,果たしてどうでしょうか。表2はあくまでも予測です。図6の他惑星と異なり,「プラズマの供給源であるとともに磁気圏と電気的に結合した電離層」が水星にはありません。この惑星では,「共通の物理に基づくスケール性」(図6)が成立する保証はないのです。現在,日欧で計画中の「BepiColombo計画」では,日本が「Mercury Magnetospheric Orbiter」を担当します。この探査機は,水星の磁場・磁気圏・外圏大気の観測を主目的とするもので,上記のような論点を含む水星の未解明・未発見の問題に答えを与えることになります。

 水星プロジェクト,検討が始まった次期地球磁気圏探査,将来の木星探査によって,活動天体としての惑星の理解が進むことを期待し,この稿を終わります。

(かさば・やすまさ) 


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