No.249
2001.12

ISASニュース 2001.12 No.249

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I can hear you, I can't hear you

茂 原 正 道  

 “I can hear you”,ブッシュ大統領のハンドマイクを通した声がまだ耳に残っている。連続テロ事件で破壊された世界貿易センタービルの現場を訪れて,救助活動をしている人たちを激励したときのTV放送である。「私(I)には,皆さんの気持ちがよく伝わってくる,アメリカ国民一致団結して,テロに立ち向かおう」という強烈な彼のメッセージである。

 逆に“I can't hear you”といわれると,聞き慣れない日本人にとって強烈な反語に聞こえてくる。

 東芝を卒業したあと8年ほどの大学生活の間に,並行して国際宇宙大学ISUの運営に参画し,いろいろな異文化を体験した。上はその委員会での発言である。ISUは国際的であるために,まずカ国語以上を話すことを要求する。英語圏の人たちもトップクラスの人は流ちょうに複数の言葉を操るが,ときどき英語しか聞こえない人が混じる。言いたいことをいいたいだけいって“I can't hear you”では,「おまえのいうことは聞きたくない」とも聞こえる。

 外国で英語が通じないとき,自分がダメでも女房が通じたりもする。単語なら発音よりアクセント,文章ならそのリズムだし,最後はボディになる。

 ただし授業はそうはいかない。学生との間の対話能力,興味をつないで聞かせる能力まで要求される。エンジニアリングが専門の学生相手の授業は何とかこなせても,法律や医学の学生に,姿勢制御の原理を,楽しく聞いてもらうのは至難の業である。日本語なら言葉を選びながら,反応に合わせてリズムを作っていけるけれども,英語ではそこまでの細工はできない。

 旧東ドイツのマイセン陶芸博物館を訪問したときのこと。説明がみなドイツ語で書かれていることに対して,アメリカからの女性団体客が「なぜ英語で書かないのか」と声高に非難をしていた。

 結局聞ける,聞けないの問題は,相手の考え,その人となりを理解できるかどうかの受容度に依存し,発信者のIと受信者のIの双方の「共鳴」の問題になる。

 東芝にいた30年のうち25年ほどを宇宙分野で仕事をしてきたから,多くの皆さんのお世話になった,また成功と同じくらいに失敗もした。ISASとのおつきあいは,小田稔先生がCORSA衛星の姿勢制御を検討されていたときに,訪問して重力傾斜安定の話をしたのがはじまりである。名大の近藤一郎先生の赤外線検出器をロケットに搭載したのが最初の宇宙機器になった。大気圏を脱けたら閉じていた窓を開けて,上空のCO2を観測する装置であったが,データは取得できたが正常ではなかった。原因は分からずじまいで,いまでも気になる。直接の担当ではなかったが,大林辰蔵,栗木恭一両先生のSEPACでは,筐体の中に残っていたナットが無重力下になって浮かび上がり,電源をショートさせ,オーロラ観測をふいにした。

 NASDAの衛星でも失敗がある。ただし失敗しても双方に「共鳴」があり,楽しい時代であった。

 これは1992年に,ISUを北九州市で開催したときの話。VIPが集まり,大学のゲストハウスで会食があった。ホストが気を利かして卓上に参加者の国旗を飾ってくれたが,あとでユニオンジャックの天地が逆であったとイギリス人に指摘され,しまったと青くなった。

 次の日アメリカで準備したという「北九州市」の文字入りのTシャッツを着て,外人スタッフ達が意気揚々と現れた。その背中をみてびっくり,なんと「北九州市」の文字が天地逆さまに印刷されている。くしゅんとなったスタッフ達に対して,「地球の反対,逆さの位置にあるNew Yorkでは,正常だったんだよね」といって慰めたら,大笑いで気を取り直してくれた。国旗の失敗もちょんになったと信じている。

(翔エンジニアリング しげはら・まさみち) 


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