No.241
2001.4

衛星基盤技術“STRAIGHT”の現状と展望

１．衛星基盤技術の特徴

図１　衛星基盤技術開発の場

　衛星基盤技術開発を有効に進めるには，図１に示したような，以下の３つの要素がかみ合った場が必要である。

　　要素１　ミッションとの接点
　　要素２　新規技術グループ
　　要素３　既存衛星技術グループ

　第１の要素であるミッションとの接点は，実際の衛星ミッションの身近にいる中で，現在の衛星開発の問題点がどこにあり，将来どのような技術が必要とされるか，的確に把握できる場を与えてくれる。STRAIGHT計画では，このミッションとの接点を，小型衛星でも可能な技術については，身軽なINDEX衛星ミッションにとっている。小型衛星にはなじみにくい大電力を使ったミッション，大型構造物，大型伸展展開技術等は，従来の科学衛星やMUSESシリーズに接点を求める。

　第２の要素は新規技術グループである。この新規技術グループが，第１の要素であるミッションから与えられた解決すべきテーマに対処していく際の技術的な突破口を作る中心的な役目を果たす。この新規技術グループは，衛星メーカー以外の産業(原子力産業，防衛産業)であったり，民生携帯通信技術であったり，衛星メーカーの研究所であったり，マイクロマシンのような新規学術研究分野であったり，従来の衛星開発に従事していないグループである事が多くなっている。

　第３の要素である従来衛星技術グループとは，現在の衛星メーカーに保有されている衛星技術である。衛星システムは，限られた重量，空間体積，電力，通信リンクの中で機能するシステムであるので，たとえ，革新的な衛星要素技術であっても，搭載される時には，ほとんど従来の衛星技術に立脚したシステムの中に搭載される。どんな画期的な衛星技術であっても，既存衛星技術との適合性が求められている。

２．STRAIGHT及び衛星基盤技術開発の重点項目

　(１）耐(極限)宇宙環境デバイス(デバイス：電子部品)
　(２）高度なデータ処理機能
　(３）外部搭載機器の小型軽量化
　(４）内部搭載電子機器の小型軽量化
　(５）姿勢センサーの高度化
　(６）通信の高機能化
　(７）電源系の高密度化(バッテリー，太陽パドル)
　(８）熱制御デバイスの高度化
　(９）軽量な構造材料

　表１に衛星基盤技術開発計画STRAIGHTの開発項目の一覧を示す。先に述べた重点項目，具体的開発技術，それを可能にした新規技術分野，ミッションとの接点をまとめた。このように，衛星基盤技術開発は，科学衛星のミッションの中で解決すべき課題を見つけ，新技術を用いた技術開発を行い，将来の科学ミッションに的確に適応するという有機的なリンクの中で進められている。

表１　衛星基盤技術開発計画STRAIGHTの開発項目の一覧

重点項目	開発技術名	新技術分野	ミッションとの接点
(1)宇宙環境部品 (2)高度データ処理	高速SOlプロセッサ 100MHz以上	次世代民生半導体技術 原子力，防衛用デバイス	INDEXにSOI搭載 水星探査機に本格搭載
(3)外部機器小型化	光学バッフル小型化	迷光解析測定，光学技術	lNDEX，MUSES-C
(3)外部機器小型化	アンテナ小型化	デジタル携帯通信技術	lNEDXのS通信機
(4)内部機器小型化	BGA回路実装	民生実装技術，防衛機器	金星，水星探査機に搭載
(5)高機能通信系	Xトラポン(再生測距)	デジタル携帯通信技術	金星，水星探査機に搭載
(6)高密度電源系	リチウムイオン電池	携帯機器電源技術	lNDEXに搭載
(6)高密度電源系	反射板付太陽パドル	高効率セル，軽量展開	lNDEXに搭載
(7)高機能熱制御	可変放射率素子	光磁気記憶材料技術	lNDEX，水星探査機に搭載
(8)軽量構造材料	デンプルレスハニカム	ハニカムパネル新技術	lNDEXに搭載

(齋藤宏文，中谷一郎(宇宙研)，STRAIGHTチーム)