No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

- Home page
- No.241 目次
- 日本の宇宙科学の新しい時代へ
- 特集に当たって
- 第1章
+ 第2章
- 第3章
- タイトルバックの出典について
- ミッション提案一覧表
- ミッション年表
- アンケート集計結果
- 編集後記

- BackNumber

小型低コストのM-V-Liteと,それによる理工学ミッション


 M-V-Liteとは,M-V機第2段からキックモータまでの3段で構成される小型衛星打ち上げ手段である。この発表の主旨は,宇宙研としてその開発に投資を含む関与をせよというものではなく,逆に宇宙研がその購入を積極的に検討し,理工学の実験に供すべきであると提言を行うものである。背景として重要であるのは,

 (1)理学側の,コミュニティあたりのミッション機会は,7〜8年に1度という頻度にまで間隔が空く情勢にあり,後継研究者の育成が難しくなっていること(状況の変化),
 (2)工学側研究は,実用ミッションの遂行だけでは,チャレンジもできなければ,新規技術開発や実証の機会がなくなり,衰退の一途であること(状況の変化)

への憂慮である。これを打開するためには,

 a)先端衛星技術のための,実証機会があるべきであり,また
 b)輸送系研究(将来系,M-V系とも)の更新,改良の機会も確保されるべきであろう。

ミッションペイロードとしてみた場合,潜在需要としては,宇宙研内に,γ線,赤外線,高層大気,プラズマ,太陽観測等に要望があり,また宇宙研外においても,無重量環境実験+回収,搭載機器実証等という需要が期待される。もちろん,国際市場もにらまなくてはならない。M-V-Liteは,基本的に

 (1)観測ロケットの延長であり,
 (2)打ち上げ+標準バス(バス:衛星を運用するために必要な機器群)を,運用コスト20億円以下で打ち上げられないか?

というのが構想の発端である。単位重量あたりの輸送系の価格比較は,意味がない場合があることに注意されるべきである。極端な例としては,たとえば,

「1シャトル打ち上げで,30個の天文衛星を30年間に1回だけ打ち上げると,宇宙科学は満足か? 単位重量あたりコストはかなり低下させることができるが。」

という問に関しての答えは無論NOである。30年後には皆退官していて,研究組織は存在しなくなる。したがって,この点が根拠で機動性のある小型衛星の需要が存在するのである。Lite機は,宇宙科学研究所が培ってきた特徴ある技術要素に基づいていて,それらの集約的な民間への技術移転でもある。姿勢制御は第1段のみ行い,そのためのavionicsなどは,フェアリング上部のエリアに集約させ,それらを洋上で回収,再使用するのが,運用上の工夫である。フェアリング上部は,脱頭して切り離し,それらは,第1段のイナート重量(輸送されるべき重量)となるため,上段ステージの負荷とならない点に特徴がある,第23段は,スピン安定下で連続燃焼させる。Lite機は,ほぼ垂直に上昇し,頂点速度は,慣性速度でわずかに1km/sec程度にすぎず,第1段の落下点は発射点に近く設定できるため,回収も容易である。わずかなキックモータにより,射点への帰還やパラグライダによる射点での地上回収も可能である点に特徴がある。M-V-Lite機の輸送能力は,300x600km軌道に500kg,太陽同期軌道に300kgである。輸送系の低価格化はもちろん重要であるが,搭載される衛星が旧来通りに品料理的に1機が数十億円を要するのでは,本来需要そのものを縮退させることにもなりかねない。このような小型廉価輸送系が機能していくためには,衛星の標準バスにまで踏み込んだシステム的な対応が求められる。低価格な衛星バスを構築するためには,M-Vをはじめとするロケット搭載機器実績で培った技術をベースに科学衛星で開発したシステムインテグレーション技術を加えていくことが有効であろう。

 ロケット技術も,昨今のように信頼性管理だけに追われることは,技術者として最悪な状況と言わねばならない。衛星技術も,情報を受けとってシステム検討だけを中心とする風潮が強くなってきていてこれも避けなくてはならない事態と憂慮される。機体構成の固定や一方的な衛星バスの標準化は,いずれ陳腐化をまねくうえに,工学面をリフレッシュすることにつながらない。したがって,M-V-Liteの工学実験機を数回に1回の割合で確保することが重要と考える。Lite機を用いて可能となる工学実験例としては,

 1)ミッション指向バス要素の追加を容易に行えるアーキテクチャ,
 2)輸送系研究のための実証手段

などが擧げられる。

 M-V-Liteは,民間主導で開発される計画であるが,それにむけてのミッションペイロードとして宇宙研,理工学分野で研究機会の増加が期待される。

(川口淳一郎(宇宙研)) 



#
目次
#
第2章 目次
#
INDEX衛星の現状と将来展望
#
Home page

ISASニュース No.241 (無断転載不可)