No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

- Home page
- No.241 目次
- 日本の宇宙科学の新しい時代へ
- 特集に当たって
- 第1章
+ 第2章
- 第3章
- タイトルバックの出典について
- ミッション提案一覧表
- ミッション年表
- アンケート集計結果
- 編集後記

- BackNumber

宇宙すばる望遠鏡と宇宙工場


 宇宙すばる望遠鏡は,口径10mの可視光宇宙望遠鏡である。名前は,日本がハワイマウナケア山頂に建設した口径8mのすばる望遠鏡にちなんでつけられた。宇宙すばる望遠鏡の特長はその高い空間分解能と集光力である。空間分解能はハッブル宇宙望遠鏡の約5倍,集光力は約20倍に達する。同時期に米国が計画しているNGST(Next Generation Space Telescope)は波長の長い赤外線の観測を中心に構想されている。一方,宇宙すばる望遠鏡は,紫外線,可視光,近赤外線観測が中心なので,空間分解能が数倍(NGSTの口径が10mの場合),10倍(口径4mの場合)高い。その高い空間分解能と集光力があいまって,その限界等級は可視光の測光観測の場合は30等R=1000の分光観測の場合でも27等に達する。その上,安定した宇宙環境にあること,宇宙ステーションからの定常的なアクセスが可能なので,常に最新の観測機器の搭載が可能であることなどの特長があり,地上の数十メートルクラスの望遠鏡やNGSTに伍して,可視光,赤外線,紫外線のすべての領域において総合的天文台として高い競争力を維持する。

 宇宙すばる望遠鏡が特に能力を発揮するのは,超精密測光と星団や銀河中心核などの込み入った領域における星の分光観測である。まず,ダイナミックレンジ5桁にもおよぶ超精密測光は,地上では大気の揺らぎのせいでほとんど不可能である。一方,大気が存在しない宇宙環境においては,5桁を超える超精密測光が可能であることが,すでにヒッパルコス衛星などにおいて,実証済みである。宇宙すばる望遠鏡では,その高い集光力を生かして,さらに暗い星についての超精密測光が可能である。これにより,恒星面通過による惑星の発見や,星振学による恒星内部研究が格段と進歩する。また,宇宙すばる望遠鏡の高い分解能を生かして,天体の面密度が高い領域における分光観測に威力を発揮する。それは,星団中心部や銀河中心核に潜む超巨大ブラックホールの存在を暴き出し,その形成過程を明らかにするはずである。また,宇宙初期にできた星の分光観測により,元素合成の現場そのものを押さえることもできる。

 宇宙すばる望遠鏡は,主鏡は8個のエレメントを折りたたんで宇宙ステーションに運び,その微少重力環境,広大な真空領域を利用して,宇宙飛行士の監視のもとに,展開,組立,最終調整を行なう。このような宇宙工場により,複雑な組立工程における失敗リスクの減少と失敗発生時のリカバリを可能とする。宇宙すばる望遠鏡の組立に必要な精度は,空気の揺らぎや重力変形などのために地上では困難である。口径10mの回折限界像は,宇宙空間では星の光を使って常時鏡面を能動的に制御することにより可能になる。最終調整の場所を宇宙ステーションに想定することで,地上における光学試験や打ち上げ時の振動を気にせずに,望遠鏡の軽量化を大胆に進めることができる。

 最終調整の後は,宇宙ステーションに不可避の,振動や化学的汚染を避けるため,太陽電池パネルやサービスモジュールを付加して独立衛星化し,スラスターでゆっくりと周辺軌道に投入する。さらに,修理や機器の更新が必要なときには宇宙ステーションに再び回収し,宇宙ステーション上においてサービスを実施する。

(戎崎俊一(理化学研究所)) 


#
目次
#
第2章 目次
#
月探査におけるサウンダー観測
#
Home page

ISASニュース No.241 (無断転載不可)