No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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次期磁気圏衛星計画


 太陽系の中心で輝く太陽は,高温なガスのかたまりでプラズマ状態(電離気体)になっているが,その他の太陽系内の目に見える物体は,地球をはじめとして温度が低い。しかしながら,太陽系の中でも,惑星と惑星の間の一見何もないように見える空間のほとんど全部は,実は非常に温度が高く,太陽と同じプラズマ状態になったガスが占めている。普段それをあまり意識しないのは,密度が薄くて人間の目に見えないからである。これらのプラズマは,おとなしく静止しているわけではなく,音速を超える非常に速いスピードで太陽から噴出して,惑星の磁場や外層大気に大きな影響を与えている。地球のまわりにも熱いプラズマの層であるプラズマシートが地球の後ろ(太陽から見て)に形成されている。

 我々の銀河系の星と星の間の空間,さらには,銀河と銀河の間の空間や,銀河団と銀河団の間の空間も,高温のプラズマで満ちていることがX線などの観測でわかっている。こ れらのプラズマは,宇宙の進化や,非常に高エネルギーの宇宙線の生成に非常に重要な役割を果たしていると考えられる。これと本質的に類似したプラズマ現象が地球のまわりの空間で起こっていることは,宇宙空間プラズマの謎を解明する上で非常に役に立つ。

 地球の後ろのプラズマシートの中では,多大な(磁場)エネルギーが瞬時に開放される現象(磁気リコネクション)がしばしば起こる。これは,宇宙空間での粒子加速現象の一例である。ここで開放されたエネルギーは,電子やイオンの加速に使われ,電子の一部は電離層に突入してオーロラの光を作りだす。オーロラは太陽のフレア現象と並んで,プラズマの中での粒子加速が身近に観測できる数少ない現象だが,そのもととなるエネルギーは,実はもっと地球から離れた,目に見えない空間(磁気圏)で作られていて,直接人工衛星をそこまで飛ばして加速された粒子や電磁場を観測するしかない。

 GEOTAIL衛星は1992年の打ち上げ時から,地球周囲のプラズマを直接観測し,粒子加速現象の解明に大きく貢献してきた。例えば,エネルギー開放(磁気リコネクション)の起こる位置はGEOTAIL衛星によってその範囲が初めて正確に捕らえられたし,流体的記述から大きく外れたイオン運動のスケール(<数百km)の現象も見えてきた。しかしながら,まだつの障害がたちはだかっている。一つは,宇宙空間で非常に重要な電子の加熱過程がGEOTAIL衛星の時間分解能ではまだよく見えないことである。もうひとつは,単独の人工衛星を用いた直接観測に特有な,「時間変化と空間変化が分離できない」という難点である。例えて言えば,私たちは秋の台風が日本で突然出現するものでなく,南方の海から日本上空に移動して起こることを知っているが,それを証明するのは,測候所が一箇所だけにしかなかったらなかなかむずかしいのと同じである。エネルギー開放領域の本当の広さと,移動速度を知るには,どうしても多点観測が必要である。

 このような背景のもとに,我々は今,次期磁気圏衛星として,複数の人工衛星の編隊飛行による観測を計画している。ねらいは,電子ダイナミックスの解明と,時間空間変動の分離である。具体的案として今検討されているのは,親衛星(320kg程度)と子衛星(50kg)4機M-Vロケットで地球磁気圏尾部の軌道に投入し,編隊飛行させる案である。親衛星は電子ダイナミックスの解明を目指して,高時間分解能(10ミリ秒)の粒子観測器,高エネルギー粒子観測器,波動観測器,電場・磁場観測器その他を搭載し高機能,高時間分解能の衛星とする。子衛星は母船から離れた点で同時観測を行って現象の空間規模を同定し,空間的発展を追うことに重きをおく。

 衛星の編隊飛行(Formation Flight) は宇宙研ではまだ行なったことのない技術であり検討すべき未知の課題が多い。次期磁気圏衛星は特に,ミクロな物理プロセスからマクロな構造崩壊につながる階層構造を明らかにするために,数十キロから1Re(地球半径)くらいの間で衛星間距離を調節しながら観測を行おうとしているので,軌道変更用の燃料が大きな制約条件になりうる。親衛星,子衛星(4個)の各衛星は,何も制御しなければ地球の周りのそれぞれのケプラー運動によって編隊の形がくずれていく。一方衛星間の距離は,積極的に変えたいという要請もあるので,軌道修正がもっとも少なくてすみ,しかも我々の観測目的を満足させてくれるような編隊案を検討している。さらに,高時間分解能による大量のデータ伝送(親機を中継とした子機データの伝送)の方法,親子の相対位置(距離,角度)の決定の方法,子機にどれだけの軌道制御能力を持たせるかなど工学的にもチャレンジングな問題が多い。これをクリアーすれば,宇宙空間プラズマの加熱加速過程に関する我々の知識は質的な飛躍をすることは間違いなく,この次期磁気圏衛星をぜひ実現させたい。

(次期磁気圏衛星ワーキンググループ) 


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