No.241 |
ISASニュース 2001.4 No.241
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VSOP-2 次期スペースVLBI「はるか」によるVSOP計画より短波長側によったVSOP-2と呼ばれる観測計画を練っている。衛星システム,地上システム,国際エレメントをふくめてミッション概略を定め,2008年ごろ打ち上げの提案に持ち込みたい。
1.VSOPの成功世界初のスペースVLBIのための工学実験衛星としてスタートした「はるか」の計画は,国際的科学ミッション(VSOP計画)として目指した大枠を達成することができた。打ち上げ時の損傷と思われる22GHz帯の感度不足にもかかわらず,水メーザー源Orion-KLで観測に成功し,22GHzという高周波での観測可能性を実証し,次世代に希望をつなぐものとなった。すでに,400を超える観測がおこなわれている。VSOPの扱う科学は,活動銀河核(AGN)からのジェット現象が主であり,その構造,スペクトル変化,動き,輝度,偏波からみた磁場降着円盤の影などの研究がおこなわれている。AGN以外には,パルサーの星間散乱,OHメーザーのサイズ,フレアー星の変化,などについても手がけられている。
図1 PKS0637-752のVSOP,チャンドラ同時観測
2.VSOP-2の科学VSOP-2では,VSOPでとりかかったAGN研究を極めることは,自然な流れと考えられる。そのために,より短波長で,AGNの芯を見通して,加速がおこなわれていると思われるショック領域に迫る。短波長でまた解像度をあげる。たとえば,VSOP-2では,M87に存在すると考えられるブラックホールのシュワルツシルト半径の10倍の解像度が得られる。これにより,より強力化するガンマ線観測,X線スペクトル観測,磁気流体力学シミュレーションなどと,より密接な接点を持って研究が展開できる。ブラックホール周辺の降着円盤と粒子加速,ジェット生成を映像で観られるのは,スペースVLBIだけである。降着円盤がみえるかどうか,熱いコロナをもつADAF(移流優性)モデルに期待したいが,見えるかどうか,興味深い。水メーザー線をふくむ22GHz帯は,AGNそのものにも,メーザーに付随したAGNについてもユニークにして必須であり,VSOPがやり残した大切な分野である。高解像に見合って感度をあげないと輝度検出感度が不足するので,感度向上も肝要である。これによって,銀河系内ジェット現象,超新星,フレアー星などで,より多くの研究者が興味を持つ科学ミッションとする。
3.VSOP-2装置ドラフト案「はるか」と同じようなイメージング軌道で,VSOP感度の10倍,解像度10倍をめざす。43GHz帯では全電磁波帯最高の25μ秒角の解像度を達成する。観測周波数は,5(あるいは8),22,43GHz帯を含み,両偏波観測とする。科学的には,低周波でのスペクトル,IDV(Intra-Day-Variable Source),吸収観測などの理由で,1.6GHz帯も希望するが,装置づくりとトレードオフする。 アンテナは10mクラス,受信器は冷却し,伝送レートは1Gbpsとする。(VSOPでは0.128Gbps) これにより解像度は5,22,43GHzに対して,それぞれ130,50,25μ秒角となる。地上25mアンテナに対する7-σ検出感度は,それぞれ10,30,70mJy(ミリジャンスキー)程度となる。 衛星軌道は遠地点3万km,近地点1000km(周期8.9時間)程度,軌道傾斜角31度とする。 地上トラッキング網,地上望遠鏡群,相関器は,VSOPの国際サポートと同様のモデルとする。
4.装置開発と実現性アンテナ:43GHz帯までをめざす面精度0.3mm(rms)展開アンテナは,「はるか」8m径面精度0.5mmから更なるチャレンジである。2000年度開発経費で,部分スケールモデルを試作,評価をする。
図2 VSOP-2衛星デザイン一例 1GHzダウンリンク,テープ記録方式:トラッキング網設計,観測局配備にとって重要な項目であり,国際VLBIコミュニティを含めて検討。データの機上サンプリング,ダウンリンクをディジタルでおこなう可能性のある部分を,2000年度開発経費で,放射試験を実施する。世界の地上電波望遠鏡施設の動向は打ち上げ想定の2008年頃には,1Gbps記録になるものと考える。(VERAは1Gbps)「はるか」と同じくM-Vを想定して,高精度アンテナ,両偏波受信,冷凍受信器,1GHzデータ伝送などの改良項目をまとめられるか,なかなか厳しいものがある。
5.国外ミッション状況とVSOP-2国際サポートロシアのRadio Astron計画は,実現が極度に困難な状況にある。NASAに提案されたARISE計画は,Decade Committeeでいい評価を得たが,あまりに理想的かつ非現実的プランであり,2015年以前の打ち上げはないと考えられている。このため,米国コミュニティはVSOP-2サポート提案の意志がある。ヨーロッパコミュニティがESAにVSOP-2協力提案(トラッキング局,JIVE相関局,等)を出し(2000年1月),よい評価を得た。カナダも積極的である。 世界の電波天文台は,VSOP同様に協力的で,常にVSOPおよびVSOP-2を視野に入れて議論をしている。VSOP-2を科学ミッションとして充実させるために,年平均2回のペースで国際会合をおこなっている。
6.問題点などVSOPは,ハード,運用ともに非常に複雑なミッションであるが,国際協力でやり遂げることができた。VSOP-2では,以下が厳しく,努力を注ぐところと考えている。
a.装置の実現性大型高精度展開アンテナは機械的に複雑なので,展開,精度ともに確実にすること。「はるか」以上の科学ペイロードをM-Vで実現すること。
b.国内科学コミュニティ世界初の試みが,工学ミッションとして始まり,VSOPでは人員が十分ではなかった。国内では宇宙研,天文台双方で,最善の現実的努力がなされてきた。今度は最初からVSOP-2運用と科学推進の人的資源が欲しい。VSOPを進めてきたグループの一部は,現在,天文台VERA建設に参加している。VERAは,周波数帯をVSOP-2と共用する20mアンテナ4局の専用VLBI網であり,日本VLBIコミュニティの「統一計画」という意識で概念設計,建設が進められている。今はマンパワー的にはたいへん厳しいが,VERA,VSOP-2ともに,科学コミュニティを強力にするものであること。
図3 VSOP-2でも「衛星」と協力する地上電波望遠鏡
c.国際協力でスタートすること日本のみならず,NASA,ESA,CSA分の提案も並列に実現していく必要がある。VSOP実現には,JPLに対してNASAは鷹揚であった。NASAは現在,どんなミッション,あるいはミッション協力にも,高い競争率のもとに厳しい科学レビューをしており,余談を許さない。さらに,VSOP-2を科学的に魅力的にするために,より大型のロケットを使って,2機ミッションにするか,あるいは,設計に余裕のあるより魅力的な1機ミッションとするか,あるいはこれをVSOP-2以降で実現するのか,頭の片隅に入れておく問題であろう。 (次期スペースVLBIワーキンググループ) |
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