No.239
2001.2

ISASニュース 2001.2 No.239

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新世紀の初日の出

安 部 正 真  

 世紀をまたぐ出張は,12月に入ってから決まったので,航空券の手配にてこずったが,何とか12月29日出国,1月4日帰国,のスケジュールを組むことができた。行き先はハワイのすばる観測所。目的はMUSES-Cミッションの探査候補天体の観測。

 MUSES-CとはM-Vロケットの5号機2002年末に打上げ予定の小惑星探査計画だ。M-V-4号機の打上げ失敗の影響で,5号機の打上げが遅れ,探査対象が変更になったために急遽この小惑星に対する観測が必要になったのである。幸いすばる観測所と観測装置グループの協力が得られ,年末年始の数日間のどこかで,観測をさせてもらえることになったのだ。

 前日の28日まで観測の準備や他の仕事に追われ,あわただしい出発となったが,年末の出国ラッシュに巻き込まれずに成田から無事出国。同日の昼過ぎにはすばる観測所のあるハワイ島に到着した。

 すばる観測所の望遠鏡は直径が8.3m1枚鏡では世界最大の鏡をもつ望遠鏡で,高度4,200mのマウナケア山頂にある。マウナケア山頂は地球上でもっとも天体観測に適している場所の一つで,大小あわせて13個の望遠鏡が建設されている。ただし,4,000mを超える高度での観測は高山病との危険との背中合わせである。空気が薄いために血液中の酸素が少なくなり,頭がぼーっとしてくる。階段を上がったりするだけで息苦しくなる。10人1人くらいは,山頂での作業に支障がでて,作業できずに下山を余儀なくされる場合もあるとのことだ。

 山麓の2,800m地点にはハレポハクという観測者用の宿泊施設がある。観測者はそこで寝泊まりし,夕方に車で山頂まで上がる。ハレポハクから山頂までは車で30分ほどだが,途中未舗装道路などもあり,4WDの車でないと上がれない。道の周りはこれといった植物もなく火山岩で覆われた山肌がむき出しになっている。ハンドルをあやまると崖から車ごと転落してしまうので,低速運転が必要である。

 我々の観測は夜の2時すぎごろから始まる。初日は到着したばかりで,いきなり山頂にあがっては身体に良くないため,夜の12時ごろまでハレポハクで身体をならしてから山頂に向かった。山頂付近ではすでに観測が始まっているため,車のライトは消し,ハザードランプのみで進む。山頂のドームに到着したときには目も暗闇に慣れていて,山頂から見上げる空には,今までに見たこともないような数の星があった。これだけの星があると普段見慣れている星座がすぐにはわからなくなってしまう。天の川もはっきりとその形を見ることができる。

 観測は到着初日と翌日の晩に行われ,当初の目的のデータが取れたため,31日1日の晩は山頂には上がらず,山麓の宿泊所で過ごすことになった。山麓にあるパソコンを用いて何人かとメールでやり取りをした。日本とハワイの時差は19時間ある。ハワイはまだ20世紀なのに,日本ではすでに21世紀を迎えていて,世紀をまたいでのメールとなった。

 山麓での世紀越えの瞬間はいたって静かなものであった。ほとんどの宿泊者は観測のために夜は山頂に上がっているため,我々のように夜中に宿泊所に残っている人はわずかだ。さらに,たいていの海外の人は昨年がニューミレニアムの始まりだとの認識らしく,特に騒いでいる人はいなかった。

 翌朝の初日の出は,宿泊所の敷地からは見えないので,5分ェほど歩いて見晴らしの良いところまで行き,30分ほど前からその瞬間を待った。東側の地平線近くから星が消えていき,空が赤みを増し,その後次第に白くなっていく。麓のヒロという街の上に留まっている雲が,ゆっくりと動きはじめる。日の出の瞬間について文学的な描写はうまくできないが,一瞬緑色の光を感じた後,次第にその顔を覗かせた。山麓の空気が澄んでいて雲の上にいるせいか,新世紀最初に見た太陽は,これまでに見たどの初日の出よりも明るかった。

(あべ・まさなお) 


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