No.235
2000.10

ISASニュース 2000.10 No.235

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第7回

惑星探査ローバ
〜「近くで観る・触って観る」〜

久 保 田 孝  

 惑星探査ローバといえば,1997年に火星表面を探査した「ソジャーナ」が有名ですが,宇宙探査ロボットの歴史は実は意外と古いのです。今から30年昔の1970年に,旧ソ連が無人移動探査ロボット「ルノホート」を月に送り込み,月面の探査を行いました。

 探査ローバの主な特徴はつあります。つは移動できるということです。これはランダミッションが着陸地点付近の探査であるのに対して,ローバミッションでは広範囲な探査が期待できます。またクレータや断崖など地殻が露頭している地域など,調べてみたいところの探査を可能にします。つめは,ローバが月・惑星表面に接触しているということです。そのため,惑星表面のサンプル採取や搭載機器によるIn-situ分析 ,掘削などによる地下探査や観測機器の設置,サンプルリターン用のサンプル収集などが可能となります。

 ローバの基本的な作業は,周囲観測による調査地域の選定,目標地域への移動観測,科学観測データ取得などです。環境観測支援では,ローバ及びマニピュレータなどによる計測センサの位置姿勢制御が必要となります。表面のサンプルは比較的新しいもので宇宙線に汚染されている可能性があります。従って,磨く・削る・割る等の作業により岩石などのサンプルの表面や内部を露出することが必要です。地下探査では専用機器による掘削や計測センサの設置,地震波探査や地盤調査では,計測機器の設置や移動しながらのデータ取得などの作業があります。

 探査ローバは,月・惑星という未知環境において活動するため,その環境に柔軟に適応できるように設計する必要があります。ローバは宇宙機のつですから,基本的には人工衛星や探査機の設計手法が参考になります。バス機器は,構造系,電源系,走行系,通信系,データ処理系,熱制御系,電気計装系などのサブシステムからなります。

 人工衛星と大きく違うところは走行系です。惑星表面を移動するため,車輪や脚などの移動メカニズムが開発されています。特に岩やレゴリスなどの不整地を柔軟に移動するために,ソジャーナは6輪で走行します。ロッカーボギーとよばれるリンク機構を有するサスペンションを持っており,車輪の1.5倍の段差を乗り越えることができます。宇宙科学研究所でも新しいサスペンション機構を有する5輪ローバを研究しています。ソジャーナと同等の走破性能を維持しながら,車輪の数をつ減らし軽量化に成功しています。一方,小惑星などの小天体では,表面重力が非常に小さいために,車輪などによる移動方式では,確実な移動を保証できません。そこでホップしながら移動する新しい移動メカニズムが提案されています。

 月や火星の場合,通信時間は往復数秒から数十分かかります。また非可視運用や通信容量の制限から,ローバミッションでは,遠隔操縦技術と自律化技術が併用されます。遠隔操縦では,搭載カメラで撮像された画像情報をもとに地球から操作します。通信時間遅れの問題を解決するために,予測画像や人工現実感を導入し,科学者にとって使い勝手のよいヒューマンインタフェースシステムを提供します。自律移動する場合には,搭載センサで表面地形をセンシングして,障害物を回避するなど知的な判断を行います。

 科学観測を支援するシステムの一つとしてマニピュレータがローバに搭載されます。遠方及び周辺環境の観測,試料のサンプリング,分光カメラなど観測機器の表土や岩石などの試料への接近・接触,地面の掘削,試料の破砕,試料表面からのレゴリス等の除去,太陽電池パネルの清掃などのメンテナンス,3次元計測などさまざまな目的に使われます。小型・軽量化,低消費電力化,長いリンク長,作業に十分な自由度,カメラなどセンサの搭載,ミッションに合わせたエンドエフェクタの搭載などを考慮して,惑星探査用マニピュレータが開発されます。

(くぼた・たかし) 


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