No.234
2000.9

ISASニュース 2000.9 No.234

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ワルシャワ出張

今 村 剛  


 7月,ポーランドの首都ワルシャワを訪ねました。目的は,宇宙空間科学研究委員会(COSPAR) の第33回総会に参加して「のぞみ」の火星探査や将来の惑星探査について各国の研究者と意見を交換すること。初の東欧訪問ということでいささか浮かれてはいましたが,目的はあくまで真面目なものです。このCOSPAR総会2年1度開催されるもので,地球科学,惑星科学,天体物理学,生命科学,材料科学など多技にわたる研究分野の世界中の研究者が参加して成果を発表します。今回の会場はワルシャワ工科大学で,7月16日から1週間にわたって開催されました。夏休みだったせいか,私は学生寮のようなところに比較的安く泊まることができました。

 ワルシャワの町並みは,思い描いていた東欧のイメージよりも明るく,一見,西欧とさほど変わらない印象を受けました。しかし,市の中心部に旧ソ連の置き土産の巨大な建造物が鎮座していたり,旧市街と思った町並みが実は大戦で完全に破壊されたあと復元されたものだったり,よく見ると異質なところも見えてきます。宇宙研で一緒に研究していたこともあるウクライナ人研究者Nabatov氏が陸路で来たと聞いたときは,この国が旧ソ連の国々と国境を接していることに思い至り,大戦前後の激動の歴史にしばし思いを馳せてしまいました。ワルシャワといえばなんと言ってもワルシャワ条約機構なわけです。Nabatov氏は,ここではロシア語も通じるんだがロシア語を使うと嫌な顔をされるから,と言って英語を使っていました。

 会議出席者に配られる名札をつけていれば市内の公共交通機関が全てタダ,というのは初めての経験でした。市をあげてこの国際会議を盛り上げようとしているのでしょうか。そのせいなのかどうなのか,会場の雰囲気は東欧のイメージを大きく裏切るバブリーなものでした。マスコットキャラクター?をあしらった派手な看板の下をくぐってメイン会場に入ると,SFっぽいコスプレのポーランド娘が会場係として走り回っていて,受付では変なおもちゃを沢山渡されて,いったい何のイベントだこれはと思いました。80年代の日本を思い出して懐かしくなりました。

 会議には,場所のせいかヨーロッパやロシアからの参加者が多かったようです。私が参加した惑星探査関連のセッションでは,Mars Expressなど既に走り出しているESAの惑星ミッションの他,現在ESAに提案されている将来計画に関する講演も多く聞かれました。多くの国々が団結してNASAと並ぶ宇宙科学の柱たらんとしている熱気を感じます。ひるがえってアジアで,このような協力のもとにミッションが実施される日は来るのでしょうか。

 会議ではまた,将来の惑星ミッションについて,NASAの惑星探査に長年関わってきた人達と意見を交換することができました。このとき強く感じたのは,惑星ミッション立案の際に持っているべきノウハウの量が違うということでした。たとえばある測定を試みるときに気をつけねばならないことについて,私たちが1年間議論しても思い至らなかったことを,彼らは既に知っている。また,豊富な経験に裏打ちされているから,ピギーバックの小型衛星を金星の大気圏に直接突入させるなどという大胆なミッションを提案できる。しかし一方で私たちにも,アイデアでは負けないという自負はあります。実際,私たちが持っていったミッション案は好意的に迎えられ,国際協力の話も進展しました。より良いミッションのためにはもっと人的な交流が必要と思い知った次第です。

 会議の合間にキュリー婦人の生家を訪ねました。実験器具が展示されていましたが,まるで小学校の理科実験みたいでした。これでノーベル賞なわけですから,宇宙研の技術をもってすればとてつもない発見ができそうです。

 ところで,食事は繊細な味の料理が多く,煮込み料理などなかなかのものでした。ビールも良。食事の美味い国はそれだけで親近感がわきます。いつか仕事抜きで来たいと思いながら帰途につきました。

(いまむら・たけし) 



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